湖北省武漢市に住む尚さんは、最近、自分が全く知らないうちに、すでに3年前に退職した会社の負債320万元（約6600万円）を背負わされていることに気付きました。このニュースは2月8日に微博（ウェイボー）で話題となり、多くの関心を集めました。中国メディア「大象新聞」によると、尚さんは2月8日、メディアに相談し、自らの状況を詳しく語りました。
尚さんによれば、今年1月17日、突然WeChatのウォレットが司法によって凍結されたとの通知を受けました。不審に思い調べたところ、自分が河南省鄭州市高新区裁判所に訴えられていることが判明しました。事情を明らかにするため、遼寧省彰武県（りょうねいしょう しょうぶけん）で働いていた尚さんは、同僚たちに助けてもらい、なんとか1000元（約2万円）の旅費を工面し、1月20日に河南省鄭州市へ向かいました。
尚さんは、2020年に武漢坤達益通商貿有限公司でインターンとして働いていたと説明します。3か月後、正式採用の話がありましたが、会社側から「正式採用には、他社の法定代表者や株主、監査役などの役職を引き受けることが条件だ」と告げられました。また、人事部からは「すでに多くの社員がこの形で関与しているので、心配する必要はない」とも説明されたそうです。
当時、長期間失業していた尚さんは、何としてでも職を得たいと考え、この条件を受け入れました。会社の指示に従い、深せん源誠商貿有限公司の法定代表者となり、株式の80%を保有することになりました。その後、2022年に武漢坤達益通を退職し、深せん源誠の法定代表者の辞任を求めました。しかし、2023年4月になっても依然として自分が深せん源誠の法定代表者であることに気付き、個人税務アプリを通じて問題を報告しました。その後、7月には法定代表者が変更されたことを確認し、事態は解決したと思っていました。
ところが、2024年になり、突然裁判所から訴状が届き、彼はこの問題がまだ終わっていなかったことを知ることになります。事の発端は2022年、鄭州ケンタッキー有限公司が深せん源誠と320万元の賃貸契約を締結したものの、深せん源誠側が契約通りに店舗を引き渡さなかったことでした。2024年、KFCは深せん源誠を提訴。しかし、訴訟の過程で深せん源誠には差し押さえ可能な財産がないことが判明し、同年12月、KFCは尚さんを含む10名を追加で被告に加えるよう裁判所に申し立てたのです。
尚さんは、「うちの家計は厳しく、結婚のために家を購入し、まだ借金が残っています。年収はせいぜい7〜8万元（約140〜160万円）しかなく、妻も最近出産したばかりで、生後4か月の赤ちゃんがいます。突然こんな巨額の負債を背負うことになり、家族に顔向けできず、旧正月にも帰省できませんでした」と語りました。
この件が明るみに出た後、尚さんは武漢坤達益通の元同僚に連絡を取りました。その結果、自分と同じように多額の負債を抱えた人が複数いることが判明しました。中には100万元（約2000万円）以上の債務を負わされた同僚もいたそうです。尚さんは、「これらの債務は本来、私たちが負うべきものではないと思います。これは武漢坤達益通が私たちのような求職者をターゲットに仕掛けた、計画的な詐欺ではないでしょうか」と強く訴えています。
中国メディアによると、2月11日にはこの裁判の初公判が開かれる予定です。それに先立ち、尚さんは武漢に戻り、同じような境遇の元同僚たちとともに警察へ通報することを決めました。この件について、北京市中倫文徳（法律事務所の趙天佑（ちょう てんゆう）弁護士は、「現在、この事件はすでに裁判所で審理中です。尚さんがまずすべきことは、積極的に出廷し、自身が『名義上の株主』であることを証明するための証拠を収集・固定することです。これを証明できなければ、会社の出資義務に応じた補償責任を負う可能性があります」と指摘しました。
また、趙弁護士は「尚さんは成人であり、当時の会社の要求を拒否することもできたはずです。そのため、武漢坤達益通に法的責任を求める訴えが裁判所で認められる可能性は低いでしょう」との見解を示しました。加えて、「法定代表者や株主といった肩書は、法的に重大な責任を伴います。安易に高額な報酬を提示されても、それを理由に名義貸しをするのは大変危険です。目先の利益を優先してしまうと、後々取り返しのつかないリスクを負うことになるかもしれません」と注意を促しました。
このニュースが報じられると、多くのネットユーザーが怒りを表明し、武漢坤達益通の行為を非難しました。あるネットユーザーは「こんな悪質な会社があるなんて信じられない。完全に『スケープゴート』を探しているだけじゃないか」と憤りをあらわにしました。
この事件が今後どのような展開を見せるのか、多くの人が注目しています。
（翻訳・吉原木子)