フランス代表のサッカー選手キリアン・エムバペが、インタビューで加工画像の人物を「中国の独裁者」と呼んだことで、中国国内で全面的に締め出されています。スポンサー契約は次々と打ち切られ、飲料ボトルに印刷された顔写真まで切り取られるほどです。国営メディアは一斉に非難していますが、肝心のエムバペが何を言ったのかは一切報じていません。その一方で、エムバペが広告に出ている飲料を高値で転売する人が現れたほか、成都のある会社はエムバペ支持を公然と表明しました。

 10月26日、レアル・マドリードに所属するエムバペは、フランスのサッカー番組「The Bridge」に出演し、自分をネタにしたミームで一番好きなものを聞かれました。エムバペが「出てくる男が……たしか中国の独裁者だったと思う」と、ある動画を挙げると、画面には毛沢東の体にエムバペの顔を合成した画像が映し出されました。友人とゲームをする時によく使っているそうです。エムバペは毛沢東の名前を一度も口にしていません。サッカーファンの間では、チームメートを食ってしまうほどの存在感から「独裁者」とからかわれることが多く、こうしたミームは以前から出回っていました。

 10月27日、中国のネットは「エムバペの中国に関する不適切な発言」の話題で持ちきりになりました。飲料メーカーの東鵬飲料、乳業大手の蒙牛、チーズメーカーの妙可藍多が相次いで、エムバペとの契約をすべて打ち切ると発表しました。各社の声明はほぼ同じ文言で、「国民感情を傷つける言動は一切容認しない」としながら、何があったのかを具体的に書いた会社は一つもありませんでした。中国のスポーツ情報アプリ「懂球帝」に至っては、2026年バロンドールのランキングで2位だったエムバペの名前を「該当者なし」に差し替えています。中国中央テレビ(CCTV)もスペイン1部リーグ(ラ・リーガ)やエムバペの出場試合の中継を取りやめ、ラ・リーガ、レアル・マドリード、そしてエムバペ本人に正式な謝罪を求めました。

 最も打撃を受けたのが、東鵬飲料のスポーツドリンク「補水啦」です。東鵬飲料は今年4月、ワールドカップ商戦に向けてエムバペと契約し、ボトルにはエムバペの顔写真が大きく印刷されていました。ここ数日、地下鉄の駅やバスの車体、スーパーの売り場から広告が急きょ撤去されたり、覆い隠されたりしています。ラベルのエムバペの顔の部分だけを切り取って店頭に並べているスーパーの写真も、ネットに投稿されています。

 ところが、これを商機と見る人もいます。ネットには「今のうちに2本買っとけ、もう手に入らなくなるぞ」という書き込みもありました。旧デザインの販売停止が進むと、エムバペの顔入りの「補水啦」が中国版メルカリとも呼ばれるフリマアプリ「閑魚」に「入手困難」「時代の記念品」といった触れ込みで出品され、1本120元(約2500円)の値がついたものまで現れました。ネットでは「どさくさに紛れて一儲けしようってやつがまた出てきたな(笑)」と茶化す声も上がっています。

 国営メディアは非難一色ですが、エムバペが実際に何を言ったのかには一切触れていません。ネットには「結局何て言ったの?どこを探しても出てこない」「報じないなら報じない、報じるなら全部報じろよ」といった書き込みがあふれ、答えは隠語を使ってひそかに広まっています。ある中国人学者は海外メディアの取材に対し、これは中国側からの警告だと指摘し、「世界中のスポーツ選手や芸能人、政治家に至るまで、我々の偉大な指導者に少しでも不敬を働くことは許さない、ということです。この不敬罪を、中国人だけでなく世界全体に広げようとしているんです」と語りました。

 企業がこぞって距離を置く中、成都のある会社は真逆の行動に出ました。10月28日にXで拡散された声明で、コンサルティング会社の成都悦法商務信息諮詢有限公司は「***を独裁者と呼んだエムバペの発言を断固支持する。世界の人々に本当の歴史を知ってほしい」と表明しました。声明では、毛沢東の名前は伏せ字になっています。さらに支持の証として、3日以内にエムバペが広告に出ている商品を10ケース購入し、市民に無料で配ると宣言しました。

 この会社の代表を名乗る人物はその後、中国の企業情報サイトの画面を投稿し、「本当に俺の会社だ。中共が強制的に潰しに来るなら、どうぞご自由に!」と書き込みました。中国国内のSNSに書く度胸はないだろうと愛国的なネットユーザーに煽られると、成都市の陳情窓口に実名で陳情し、エムバペの発言への支持を伝えたと投稿しました。「四川省政府は早く外務省に連絡して、俺を中国に引き渡すようスイス政府に求めてくれ」とも書いています。企業情報サイトによると、この会社は10月28日、当局が問題のある企業を公表する「経営異常リスト」に載せられました。ネットでは「こいつ、マジで度胸あるな」とたたえる声が上がる一方、「成都にいたら2時間もしないうちに取調室行きだろうな」という書き込みもありました。

 エムバペは10月27日、フランス語、中国語、英語の3か国語で謝罪声明を出しました。自分の発言は「不適切だった」とし、中国や世界各地の華人社会の多くの人を傷つけたと認めたうえで、「心から申し訳なく思っています」と謝罪しています。ラ・リーガのテバス会長とレアル・マドリードもそれぞれ謝罪し、中国外務省の報道官は28日の記者会見で、エムバペの謝罪を重視していると述べました。ただ、28日の時点でも、レアル・マドリードの試合は中国では見られないままです。

 謝罪声明はXに投稿されてわずか2時間で表示回数が1000万回を超え、「謝る必要なんてない」という声が相次ぎました。コメント欄には「毛沢東が独裁者なのは事実だろ」「あなたは中国人を傷つけてなんかいない。傷ついたのは共産党と、その国内支配だけだ」といった書き込みが寄せられています。アメリカ下院の中国特別委員会も声明を出し、エムバペは謝罪すべきではなかったとしたうえで、「毛沢東は間違いなく独裁者であり、中国の人々が受けた被害は、一人のサッカー選手の発言とは比べものにならないほど大きい」と指摘しました。

 2019年には、NBAヒューストン・ロケッツのGMが香港の抗議デモを支持する投稿をしたことで、CCTVがNBAの中継を1年半にわたって取りやめました。それから7年、今度はサッカー界のスターが同じ構図に巻き込まれた形です。

(翻訳・吉原木子)