2025年7月末、杭州市のビルにある「出勤するふり無限会社」というスペースが、ネットで大きな話題になりました。この「会社」は広さ400平方メートルで、数十人分のデスクが並び、会議室やプリンターもそろっています。壁には、遅刻禁止、デスクでいびきをかかない、喫煙·飲酒·汚い言葉は禁止、社内恋愛禁止といった規則まで掲げられています。しかし、すべては「見せかけ」です。出勤してくる「社員」に給料は出ず、逆に1日約710円(30元)の利用料を会社に支払います。深夜まで「残業」することもできます。

 創業者の陳英健(チェン·インジエン)さんによると、1日に訪れる人は通常20人ほどで、多いときには50人に上ります。最も長く利用している人は、すでに6か月以上「出勤」しているといいます。

 中国共産党がかつて誇っていた不動産市場やインフラ事業、国内消費などが低迷し、中国の雇用や収入に深刻な打撃を与えています。仕事を失ったことを家族に打ち明けられず、「出勤するふり」で心理的な負担を和らげようとする失業者も少なくありません。この話題は、中国の主要SNSで今も大きな関心を集めています。

 ロイター通信の10月20日の報道によると、こうした「出勤するふり」は、中国のSNSで多くの共感を呼んでいます。関連する投稿の閲覧数は、中国版TikTokの抖音(ドウイン)だけで6億1000万回に上り、微博(ウェイボー)でも関連するハッシュタグの閲覧数が3億2000万回に達しています。

 また、小紅書(シャオホンシュー)にも関連する投稿が数多くあり、日中どこで時間をつぶすか、仕事について尋ねる親戚にどう答えるかを教えるものや、「出勤するふり」の体験を記録したものなどが、7000万回以上閲覧されています。公園や図書館、カフェ、ショッピングモールをぶらぶらするなど、外で1日を過ごすための工夫が紹介されています。日記形式の投稿もあり、「失業30日目:出勤するふりをして1か月」と題した投稿では、書き手が80回応募しても仕事が決まらなかった経験をつづっています。

 32歳の李可可(リー·コーコー)さんは、中国の国有不動産企業で働いていましたが、仕事量が多いうえに評価もされないことから、半年余り前に退職しました。あるとき、自宅で作った昼食の写真を家族のグループチャットに送りそうになりましたが、すぐに思いとどまりました。母親に、なぜ仕事に行っていないのかと聞かれるかもしれないからです。李さんはロイター通信に、母親が心配しても「それで私の問題が解決するわけじゃない」と話しました。

 失業した会社員の多くは、家にいると気まずく、家族にも心配をかけたくないため、毎日きちんとした服装で外に出て、出勤するふりをしています。以前はスターバックスでコーヒーを1杯注文し、1日中過ごしていましたが、今は貯金が減ったため、図書館で過ごすようになりました。これならコーヒー代もかかりません。夏は冷房、冬は暖房があり、無料のインターネットも使えます。ミネラルウォーターを1本持ち込み、1日中パソコンで求人を探して履歴書を送り、時間になれば仕事を終えたふりをして帰宅します。大都市の図書館は、失業後も出勤するふりを続ける会社員で混み合い、遅く行くと座る場所もありません。

 映像の視覚効果を手がけるプロデューサーだった36歳の張さんは、8月にAIの導入に伴う人員削減で仕事を失いました。張さんは、「平日の図書館が満席になるなんて、思ってもみなかった」と話しました。

 28歳の孫蘇珊(スン·スーシャン)さんは、昨年末にインターネット企業から解雇されて以来、そのことを家族に隠し続けています。今年5月、母親と継父が仕事を探すために故郷から重慶市へ移り、孫さんと同居するようになりました。そのため、家族にあれこれ聞かれないよう、毎朝9時前に家を出て、午後6時を過ぎるまで帰れなくなりました。現在は、月約4万4000円(1864元)の失業手当と、解雇時に受け取った補償金の残りで暮らしています。孫さんは、働かずに質素な生活を送ることには満足していて、唯一のプレッシャーは両親から受けているといいます。両親は「景気が悪いから」とたびたび貯金を勧め、それが孫さんをひどく不安にさせています。

 ある投稿者は、会員制スーパー「サムズクラブ」で、出勤するふりをして1日を過ごす様子をSNSで紹介しています。

 頑張らずに生きることを広めちゃいけない?だったら、出勤するふりをしよう。食べて、遊んで、試食して、本を読んで、休憩もできる。時間になったらきっちり退勤。無理な競争も、くよくよ悩むこともなし。1日でも気楽に過ごせれば、それでいい。

朝8:32家を出て、サムズクラブへ

9:00「会社」に到着。会員カードがないので入れない。入り口で親切な人を見つけて、一緒に入れてもらおう。

9:42やっと入れた。うれしくて泣きそう。

10:00 店内をぶらぶら

10:35 読書。どこにいても学ぶことはできる。

10:50 おなかがすいた。試食を待つ。

11:00 やっと試食を1つもらえた。うれしい。

11:12 スマホを見る

11:30 持参した昼食を食べる

12:00 昼休み

13:35 スマホを見る

14:20 トイレに行く

14:35 スマホを見る

15:00 おやつの時間。おいしすぎる。

15:37 氷で遊ぶ

16:00 身だしなみを整えて、退勤の準備

 「出勤するふり」という現象は、中国の雇用情勢が悪化し続けていることを映し出しています。中国経済は輸出への依存を強める一方で、国内需要の低迷が続いています。不動産危機は長期化し、地方政府の財政も厳しくなっています。さらに、自動化やAIの急速な普及も、雇用や収入に打撃を与えています。

 10月19日に中国当局が公表した第3四半期のデータによると、中国の製造業各社は激しい競争に対応するため、相次いで値下げや人員削減を進めています。そのうえ、残った従業員にはさらに重い仕事の負担がのしかかり、多くの人が息つく暇もない状況に追い込まれています。

 また、新たな働き方を研究する「新就業形態研究センター」が今年6月に発表した「2025年中国ブルーカラー層の雇用研究報告」は、2025年の中国で、単発の仕事や個人で請け負う仕事などの「柔軟な働き方」をする人が2億8000万人に達したとしています。2024年から4000万人増え、2026年にはさらに3億2000万人に増えると予測しています。同センターは、首都経済貿易大学と中国就業促進会が共同で設立した、新たな働き方を研究する学術機関です。

 中国当局の公式資料によると、2025年の全国の就業者数は7億2500万人で、2024年の7億3400万人から約935万人減少しました。この数字をもとに、増加した「柔軟な働き方」の就業者を差し引くと、2025年にはそれ以外の仕事が約5000万人分失われたと推計する論評もあります。

 ただし、中国当局の雇用統計は、就業者とみなす範囲が広すぎるとの疑問も出ています。中国国家統計局が用いている基準では、「週に1時間以上、報酬を得る仕事をした人」は、すべて「就業者」とみなされるからです。そのため、単発の仕事や料理の配達、配車サービスの運転などで生計を立てる多くの人が就業者に含まれ、失業の実態が覆い隠されているという指摘です。

 この現象を、1990年代の日本のバブル崩壊やアジア通貨危機の後、日本や韓国の会社員の多くが失業を隠し、行き場もなく街をさまよっていた光景になぞらえる人もいます。米国のバッファロー大学で社会学を教える董一格(ドン·イーグー)助教は、1990年代の日本や韓国と比べ、中国では生活を支える社会保障の仕組みが弱く、失業者が出勤するふりを続けることは、いずれさらに難しくなる可能性があると指摘しています。

(翻訳・藍彧)