2024年末から2025年初頭にかけて、中国ではH1N1型インフルエンザの流行が急速に拡大しました。この感染症は特に子どもたちに深刻な影響を与えており、その症状の重篤さや進行の速さは、多くの家庭に計り知れない悲劇をもたらしています。一部の患者は、発症からわずか数日で命を落とし、多くの人々がこの感染症の恐ろしさを改めて認識させられています。

 陝西省に住む若い母親は、3歳4か月の娘・念念(ニェンニェン)を失った経験を語りました。2024年12月29日、念念は突然発熱しました。発症する前には母親の腕の中で笑顔を見せながら麺を食べていた娘が、数分後にはけいれんを起こし意識を失いました。家族はすぐに救急車を呼び、近くの病院に搬送した後、西安の児童病院に転院しましたが、11時間以上の懸命な治療もむなしく、念念は二度と目を覚ますことはありませんでした。医師の診断によれば、彼女の死因はH1N1型インフルエンザによる急性脳死とマイコプラズマ肺炎でした。母親は「たった数分前まで笑っていた娘が、こんなにも急にいなくなるなんて想像もできませんでした」と悲しみを語っています。この悲劇的な出来事は、社会全体に深い衝撃を与えました。

 同様の悲劇は他の地域でも頻繁に発生しています。山西省では、ある母親が「赤ちゃんが発熱してから命を落とすまで、わずか2日間しかなかった」と語り、涙をこらえきれない様子でした。また、河南省に住む別の母親も、自身の2か月齢の赤ちゃんがH1N1型インフルエンザに感染した経緯を話しました。最初は軽い咳と肺の異常が少し見られる程度で、病院でも特に危険視されることはありませんでした。しかし、その後発熱が始まり、病状が急速に悪化して重度の肺炎と診断されました。母親は赤ちゃんの命を救うため、複数の病院を転々としながら懸命に治療を受けさせていますが、赤ちゃんは依然としてICU(集中治療室)での治療を余儀なくされています。このような状況に、多くの親たちはH1N1型インフルエンザの恐ろしさを改めて痛感しています。

 中国のネット上では、H1N1型インフルエンザの特徴的な症状について議論が交わされています。高熱が繰り返されること、咳や倦怠感、筋肉痛、さらには四肢のしびれや痛みが主な症状として挙げられます。特に小さな子どもたちでは、高熱が原因でけいれんを引き起こしやすいことが指摘されています。このため、感染した子どもの親たちからは「どうしてこんなに急速に悪化するのか」「わが子を守るために何ができるのか」といった切実な声が上がっています。

 H1N1型インフルエンザの影響は子どもたちに限りません。成人においても、感染が深刻な合併症を引き起こすケースが増加しています。南京市に住む張さんは、発熱、咳、全身の倦怠感といった一般的な症状でH1N1型インフルエンザと診断されました。治療を受けて一時的に回復したものの、突然顔の左側が動かなくなり、笑うことや目を完全に閉じることもできなくなりました。さらに耳の後ろには鋭い痛みが走り、日常生活に支障をきたしました。医師による診断の結果、彼女の症状は急性の顔面神経麻痺と判明しました。このケースは、H1N1型インフルエンザが免疫系に大きな影響を与える可能性を示しています。ウイルスが免疫システムを刺激し、その結果として免疫反応が顔面神経を誤って攻撃する場合があります。このような症状は、適切な治療を受けなければ後遺症として顔の麻痺が残る可能性が高いとされています。

 浙江省麗水市の朱さんは、感染後4日間休養を取り、体調が回復したと感じていました。しかし入浴後に突然手足の力が抜け、呼吸困難に陥るという事態に見舞われました。「一瞬で全身の力が抜け、呼吸ができなくなりました。こんな恐怖を感じたことはありません」と彼女は語っています。

 さらに、H1N1型インフルエンザの流行によって、家族全員が感染する事例も数多く報告されています。浙江省では、家族旅行中に6人中5人が感染するケースがありました。このうち50代の女性は肺炎を発症し、医師から「初期治療を受けていれば肺炎に進行することはなかった可能性がある」と言われました。こうしたケースでは、家庭内での隔離や適切な予防措置の重要性が浮き彫りになっています。

 さらに深刻なのは、H1N1型インフルエンザが非常に速いペースで症状を悪化させることです。河南省新郷市では、ある父親が娘を看病する際に感染し、自身の病状が急速に悪化しました。高熱が続き、肺が「白い肺」と呼ばれる重症の状態に至り、集中治療室での治療が必要となりました。この家族は、「インフルエンザは単なる季節性の病気だと思っていたが、こんなに命を脅かすとは思わなかった」と述べています。

 医療従事者もこの感染拡大の影響を受けています。北京の急診科医師はH1N1型インフルエンザに感染し、病状が悪化してウイルス性肺炎と診断されました。彼は「全身が冷え切り、四肢の末端が紫色になるショック状態に陥った」と記録しています。

 現在、中国ではH1N1型インフルエンザが流行のピークに達しており、特に14歳以下の子どもたちにおける感染率が急増しています。中国疾病予防管理センターのデータによると、インフルエンザ陽性率の99%以上がH1N1型であり、患者の多くは肺炎や神経系の合併症を経験しています。

 医師たちは早期治療の重要性を強調しています。発熱や咳の初期症状が見られた場合、速やかに専門医を受診することが推奨されます。また、家庭内での感染拡大を防ぐため、隔離措置や衛生管理を徹底する必要があります。

 この感染拡大は中国の医療システムに大きな負担をもたらしていますが、それ以上に普通の家庭にウイルスの無情さを突きつけています。H1N1型インフルエンザは、子どもたちにも大人たちにも等しく健康への脅威をもたらします。

(翻訳・吉原木子)