世界的に有名な日光東照宮の三猿像(Wikimedia Commons / Jakub Hałun CC BY-SA 4.0

 日本でよく知られている目、耳、口を両手で塞いでいる三猿は、現在、スマートフォンの絵文字として使用されるほど、すっかり市民権を得ており、世界中の人々に愛用されるようになりました。

 この三匹の可愛らしいお猿さんはただものではありません。彼らの目、耳、口を隠している意匠には、「見ざる、聞かざる、言わざる」という叡智を示しているとされています。

 「見ざる、聞かざる、言わざる」は、中国の思想家・孔子(紀元前552~479年)の『論語』の中の「非礼勿視、非礼勿聴、非礼勿言、 非礼勿動」と言う言葉に由来すると言われています。

 日本語にすると、「礼節に背くことに注目してはいけません、礼節に背くことに耳を傾けてはいけません、礼節に背くことを言ってはいけません、礼節に背くことを行なってはいけません」という意味になりますが、この教えが、8世紀頃に天台宗の留学僧を経由して日本に伝わり、これに、語呂合わせとしての「猿」が付き、見ざる→見猿となったと言われています。

 世界的にも有名な日光東照宮の欄間に彫刻された『見猿(ざる)、聞か猿(ざる)、言わ猿(ざる)』の三猿は論語の中のこの言葉をモチーフにしたものだと考えられています。

 携帯電話の普及により、三匹のお猿さんは世界の絵文字の舞台に登場し、世界中の人々に知られ、使われるようになりました。

Unicodeには三猿の絵文字が設定されている(ウィキペディア)

 この愛嬌満点のお猿さんの絵文字を何気なく使う時、その中に託されている賢人たちの智慧と戒めを忘れてはいませんか? 私達の心の中に「見てはいけない、聞いてはいけない、言ってはいけない」ことの基準をしっかり持っているでしょうか?

 携帯電話が無ければ何もできなくなるような「依存症」や、ゲームに没頭し過ぎることによる生活習慣の乱れ、メールやネットへの書き込み、無料通話アプリ等でのやりとりが原因の「いじめ」、「有害サイト」へのアクセス、ネットで知り合った人とのトラブル等、便利な道具である携帯電話には実に様々な危険性が潜んでいます。

 「何を見てはいけない、何を聞いてはいけない、何を言ってはいけない」かは、人によって基準はそれぞれ異なりますが、私達は心の中にしっかりその基準を持ち、頭の中に常に善と悪、良し悪しを見極めるアンテナを張り巡らしておくべきではないでしょうか?

 日常生活に支障が出ないよう、トラブルや犯罪に巻き込まれないよう、そして、知らないうちに自分が加害者にならないよう、「見ざる、聞かざる、言わざる」の三猿から私達はその智慧を学び、携帯電話を上手に使いたいですね。

(文・一心)