中国を訪れた台湾住民が当局の尋問を受けた事例が新たに4件明らかになった。このうち公務員らは観光目的で渡航したにすぎないにもかかわらず、執拗な尋問を受けていた。台湾で対中政策を所管する大陸委員会は、公務員に対し、必要がない限り中国への渡航を控えるよう呼びかけた。あわせて「現場の職員で国家機密に触れていないから問題ない」と安易に考えてはならないと警告し、中国共産党による尋問の対象は軍や警察、機密を扱う職員に限られないと強調した。
台湾の中央通信社(中央社)によると、大陸委員会の梁文傑副主任委員(報道官)は9月24日の定例記者会見で、中国渡航中に尋問を受けた最新の事例を公表した。それによると、7月にハルビンなどを観光で訪れた刑事警察局の警察官2人は、宿泊先に3晩続けて中国側の関係者の訪問を受け、取り調べられた。質問は、中国による台湾統一に対する立場、台湾警察の日常業務の詳細、政治情勢や台湾独立問題に関する見解などに集中していたという。
同じく7月には、財政部の税務部門に勤める公務員1人が、北京・天津を旅行中に事情聴取を受けた。8月には、別の財政部職員がチベット自治区と四川省を観光で訪れた際、現地の国家安全当局者から検問と事情聴取を受けた。
今回明らかになった事例の中で特に注目されるのが、衛生福利部傘下の病院に勤める看護師のケースだ。この看護師は今年8月、チベットを旅行中に中国の公安当局に拘束され、取り調べを受けた。理由は、数年前に軍の病院に勤務していたというだけだった。すでに衛生福利部傘下の病院に移っていたにもかかわらずである。
公安当局者は、軍病院の内部情報を執拗に追及した。質問は、各分院の配置や病棟の構成、歴代院長の住所、看護部長の本名と階級のほか、院内で受診している軍人や診療に当たる軍医の階級にまで及んだという。
梁氏は「これまで軍人や警察官が尋問を受けるケースは多かったが、元軍病院の看護師までが対象となったのは今回が初めてだ」と述べた。中国共産党の狙いを問われると、「中国共産党はわが軍のあらゆる組織・部門に関心を持っている。今回の尋問は、明らかに台湾の軍病院の運営状況を把握しようとしたものだ」と指摘した。そのうえで、中国共産党の台湾への浸透があらゆる分野に及んでいることを示す事例だとの認識を示した。
梁氏は公務員に対し、所属機関の組織体制や業務上の秘密を安易に漏らさないよう注意を促した。同僚や上司の個人情報を提供してはならないとも強調した。また、中国で尋問を受けた場合は、台湾に戻った後に規定に従って事実どおり報告し、責任の所在を明確にして自らを守るよう求めた。
公務員に限らず、一般市民も中国渡航時に尋問を受ける可能性がある。今年8月にある保護者がSNS「Threads(スレッズ)」に投稿した内容によると、息子が上海へ出張した際、空港の入国審査で突然係官に別室へ連れて行かれた。息子はそこで、私服の職員3人から6時間にわたって尋問を受けた。その間、スマートフォンのロック解除を求められ、メールや写真を一つひとつ確認された。さらに、通信アプリ「LINE」や「WhatsApp」に残る業務資料や会話履歴についても、長時間追及されたという。
息子は大学卒業後、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルで短期間アルバイトをしたことがあり、尋問は同団体での活動に集中した。中国、香港、新疆、チベットなどの人権問題に関わったかどうか、団体の資金源、台湾での人脈、今回の渡航の本当の目的などを問われたという。息子は、自分は意思決定に関わる立場ではなく、生活のために現場の事務作業をしていただけで、すでにかなり前に辞めていると説明した。最終的に、自ら入国を断念すると申し出たことで台湾に戻ることができた。
保護者は投稿で、帰国した息子が疲れ果て、精神的に追い詰められた様子を見て、今も恐怖が消えないと心境をつづった。さらに、「中国の情報機関は長年、国際人権団体や台湾の主要NGOの職員、インターン、ボランティアの名簿を収集してきた。本人が気づかないうちに、出入国審査の『重点監視リスト』に名前が載っている可能性がある」と訴えた。
一方、中国では新たな「出入国管理に関する国務院の規定」が9月15日に施行された。大陸委員会の沈有忠副主任委員は、施行前日の9月14日に開かれた座談会で公に警告した。科学技術関係者、公務員、宗教関係者、台湾企業の幹部、特定の政治的発言をしたことがある人の5類型は、中国渡航に大きなリスクが伴うという。
大陸委員会がまとめている「台湾住民の中国・香港・マカオ渡航に関する安全動向週報」によると、2024年1月1日から2026年8月27日までに、中国に渡航した台湾住民が連絡を絶った事例、拘束されて取り調べを受けた事例、身体の自由を制限された疑いのある事例は、累計426件に上る。
これについて、ベテランジャーナリストの李大宇氏は、実際の数はさらに多い可能性があると指摘した。大陸委員会自身も、中国渡航後に行方不明となった台湾人について「把握しきれていない件数がある」と認めているためだ。
(翻訳・文遠)
