中国のネット通販で買った有名ブランドの化粧品。その中には、ごく普通の民家の居間で容器に詰められたものが紛れ込んでいるかもしれません。

 容器に詰めているのは、隣に住む人かもしれません。それを購入者の手元へ届けるのは、深夜に発送される宅配便です。そして、この流通網を暴こうとした記者は、見張られ、車で尾行され、さらに深夜、派出所の警察官を名乗る人物から「出頭」を求める電話まで受けました。

 今回は、広東省汕頭(スワトウ)市潮陽(ちょうよう)区の和平鎮(へいわちん)で、民家と宅配便、ネットショップの背後に隠れていた偽化粧品の製造·流通の実態を見ていきます。

 発端は、消費者から寄せられた苦情でした。

 中国紙「新京報」によると、最近、ネットで購入した化粧品を使った後に、皮膚が赤く腫れたり、ただれたりした人が相次いでいます。病院を受診し、接触性皮膚炎、いわゆるかぶれと診断された人もいました。

 今年5月末、新京報の記者は、複数の通販サイトで、有名ブランドの化粧品のうち偽物の疑いがある6種類を購入しました。同時に、比較のため、正規の販売カウンターでも同じ商品を購入し、まとめて検査に出しました。検査機関が赤外線を使って成分の特徴を比較するなどした結果、ネットで購入した6点はすべて偽物と判断されました。SK-IIやヘレナルビンスタインなど、有名ブランドの商品が含まれていました。

 商品が偽物だったこと自体は、それほど意外ではありません。本当に厄介なのは、偽物を売る店の実態が、なかなかつかめないことです。

 記者は「大量に仕入れる業者」を装って販売者に接触し、仕入れ先をさかのぼって調べました。すると、特定のネットショップで長期間売り続けるのではなく、次々と店を変えていることが分かりました。ある店が目を付けられると閉店し、すぐに別の店を開いて販売を続けるのです。消費者には別々の店に見えても、仕入れ先は同じかもしれません。

 この販売ルートをたどっていくと、最後に浮かび上がったのが、汕頭市潮陽区の和平鎮でした。

 新京報の9月7日の報道によると、現地の偽化粧品の一部は、正規の工場ではなく、ごく普通の民家で作られていました。発覚する危険を減らすため、原料は一度に大量に運び込まず、複数の民家へ分散して届けていました。製造拠点の中には監視カメラを設置し、専任の見張りを置いて周囲の様子をうかがっているところもありました。

 記者は、いくつかの民家で、先ほどのブランドをかたる偽物や包装資材を確認しました。作業員がその場で香水などを加工している様子も目撃しています。報道によると、偽物の販売で得られる利益は製造原価の数倍、場合によっては十数倍にもなるといいます。

 これらをつなぎ合わせると、製造から販売までのおおよその流れが見えてきます。原料を複数の民家へ分散して運び込み、そこで加工し、容器に詰め、ラベルを貼ります。こうした商品を複数の通販サイトで販売し、夜間に宅配業者へ渡して発送するのです。

 製造現場は住宅の中に隠れ、販売先はさまざまなサイトに分散しています。さらに、宅配便を介することで、製造者と消費者が直接つながらない仕組みになっています。こうした一つ一つの段階が、監視や取り締まりを難しくしています。

 ここまでであれば、また一つ、偽物の製造·販売の実態が明るみに出たというニュースだったでしょう。しかし、その後に起きた出来事によって、この調査は違う様相を帯びてきました。

 新京報が後に調査の経緯を振り返った報道によると、取材に参加した劉錦涵(りゅう·きんかん)記者は、身分を隠して何度も現地に入りました。その過程で、自分が見張られていることに気付いていました。今年6月25日未明には同僚に電話をかけ、情報提供者の身の安全が心配だと伝えています。

 報道によると、記者が車で現地の村を離れた際、黒い車が後ろをついてくることにも気付きました。さらに深夜、見知らぬ男から電話があり、ある派出所の警察官を名乗って、「出頭」を求めるような言葉で圧力をかけてきたといいます。

 ここで、いくつかの疑問が浮かびます。一見、設備も簡素な民家の作業場で、なぜ人を使って記者を見張る必要があるのでしょうか。深夜に電話をかけてきた人物は、一体何者だったのでしょうか。報道では、その答えは示されていません。

 9月8日、汕頭市は取り締まりの結果を公表しました。報道で明らかになった拠点から、ブランドの表示を偽装した疑いのある空き瓶や包装箱など、合わせて2万8690点を押収したということです。このほか、容器4個分の香料、製造設備18台、容器340個分のクリーム状のものも押収しました。

 しかし、もう一つ、詳しく見るべき数字があります。報道が引用した地元の情報によると、潮陽区では今年に入って、偽化粧品に関わる拠点がすでに14か所摘発されており、事件に関わる総額は約6億3200万円(2672万2000元)に上ります。

 今年に入ってすでに14か所を摘発していることから、取り締まりが続けられていることは分かります。しかし同時に、今回明るみに出た民家の製造拠点が、特別な一例ではないことも示しています。

 しかも、話はまだ終わっていません。新京報の9月9日の追加取材によると、地元住民は、箱型の荷台が付いた三輪車が、和平鎮内の複数の地区や周辺の町を行き来しているのを目撃しました。報道は、偽物の製造拠点を移している可能性も否定できないとしています。

 同じような製造·流通の仕組みは、ほかの地域でも見つかっています。

 広州市公安局が今年1月に公表した2025年の活動報告によると、広州市の警察は、海外との取引を扱う通販サイトのライブ配信を通じて、偽化粧品を販売していた事件を摘発しました。このグループは、中国国内で作った偽物を「輸入された正規品」に見せかけ、越境通販やライブ配信、SNSを通じて販売していました。累計の販売額は約18億9200万円(8000万元)を超えています。警察は容疑者15人を拘束し、会社の運営拠点1か所、倉庫3か所、偽物を製造する工場1か所を摘発しました。さらに、有名ブランドをかたる偽化粧品や包装資材など、13万点以上を押収しました。

 2025年に中国紙「検察日報」が報じた深セン市龍華区の事件では、この流通網を支える目立たない存在、倉庫管理者の役割が浮かび上がりました。荘(そう)という姓の被告は、取引元が国際的なブランドをかたる偽のスキンケア用品や化粧品を売っていると知りながら、雇われて倉庫を管理し、人員の募集まで担当していました。7か月間、この倉庫では商品の受け取りから入庫、仕分け、梱包、発送までを行い、数千点の偽スキンケア用品が市場へ流れ出ていました。

 汕頭市の民家から、広州市のライブ配信、そして深センの倉庫まで。これらの事件には共通点があります。偽物の販売は、もはや実店舗に頼らず、製造、保管、ネット販売、配送をつなぎ、それぞれの担当者が全体のほんの一部分だけを受け持つ仕組みになっているのです。

 今回、この流通網が明るみに出たのは、尾行や圧力を受ける危険を冒しながら、記者があの民家に足を踏み入れたからでした。

 町から町へと行き来していた、あの三輪車は、最後にどこへ荷物を運んだのでしょうか。今のところ、その行き先は分かっていません。

(翻訳・藍彧)