中国雲南省シーサンパンナ・タイ族自治州の勐腊(もうろう)県で、8月28日の午後から29日の午前にかけて激しい雨が降り続きました。中でも被害が大きかったのが、ラオスとの国境にある町、磨憨(モーハン)です。24時間の最大雨量は187.5ミリを記録しました。29日になると、現地で撮影された映像がネット上に次々と出回りました。濁った水が町なかに流れ込み、車や瓦礫を押し流していく様子、路地を勢いよく走り抜ける水が屋根の高さに届いている様子が映っています。屋根まで水につかった家が何棟も確認でき、流れに耐えきれずに建物が崩れ落ちる瞬間をとらえた映像もありました。拡散されると、中に人が残っていたのではないか、もしそうなら助からなかったのではないかと心配する声が相次ぎました。
当局の発表は、この災害を大雨のせいだとしています。ただ、ほぼ同じ時間帯に出されたもうひとつの発表が、より重要な事情を明かしていました。磨憨にある塩塘(えんとう)ダムで、水が堤防を越えてあふれ出していたのです。29日の夜、昆明市の防災当局は、このダムがあふれており決壊のおそれがあると発表しました。周辺の村や町では住民の避難が始まり、現場の状況を見て避難の範囲をさらに広げるとしています。
30日の午前までに、避難した人は8000人あまりに膨らみました。中国メディア各社が磨憨の役所に電話で取材したところ、応対した職員は、豪雨の影響でダムに水があふれる危険が生じており、いま放流の作業を行っていると答えています。同じ日の朝、勐腊県の気象台は警報を最も高い「暴雨レッド」に引き上げ、塩塘ダムが降り続く雨によって決壊の危険を抱えていることを名指しで指摘しました。あわせて、これから数時間も激しい雨が続くとして、浸水や鉄砲水、土砂災害への警戒を呼びかけています。
当局の説明は、同じ日のうちに食い違いを見せています。ある記者が午前中に役所へ電話をつないだとき、応対した職員は、前の晩から雨は弱まっていて、ダムの放流によって水位はすでに下がったと説明しました。ところが、気象部門がその日レッド警報を出し、ダムには依然として危険があるとしている点を問われると、いまも雨は降っていて救援活動は続いている、担当者はダムに到着して放流の対応にあたっている、と話が変わりました。別のメディアの取材に応じた職員は、前日の状況について「昨日のはごく軽くあふれただけですよ、ずっとリアルタイムで監視してますから」と述べる一方で、「塩塘ダムのあたりは雨量が多すぎて、道路も流されました」と認めています。さらに「重機を入れて道は通しましたが、通信はまだ復旧していません。いままた激しい雨が降り始めています」と付け加えました。片方には「軽い」「リアルタイムで監視」という言葉があり、もう片方には流された道路、途絶えた通信、8000人を超える避難者、そしてネットに出回る屋根まで水につかった映像があります。
塩塘ダムは磨憨の上流にあります。2023年に拡張工事が始まり、拡張後の総貯水量は851万立方メートル。中国とラオスをまたぐ磨憨・磨丁経済協力区にとって、唯一の水源でもあります。900万立方メートル近い水をためたダムが下流の町の頭上にあり、降り続く雨のなかでまず水があふれ、そのあとに放流が行われました。この流れだけでも、町があれほど短い時間で軒先の高さまで水に沈んだ理由は説明がつきます。
ネット上の問いかけは一点に集まっています。「豪雨による洪水」とされるもののうち、どこまでが雨で、どこからがダムから流された水なのか。発表された時系列を追うと、水があふれ出した時期と町が水没した時期はほぼ重なっており、放流の作業は危険が伝えられたあとも続けられていました。映像に映っていたのは、平地に一気に立ち上がって家を押し倒すほどの水の壁で、雨が降り続いて水がじわじわ溜まっていく浸水とは形そのものが違います。そして、8000人を超える規模の避難が洪水の到達前に終わっていたのか、それとも家がすでに流されたあとに始まったのかについて、当局の発表は何も語っていません。映像のほうは、すでに世に出ています。
(翻訳・吉原木子)
