2024年7月19日の夜、中国・陝西省(せんせいしょう)商洛市(しょうらくし)柞水県(さくすいけん)を激しい豪雨が襲いました。午後8時40分ごろ、丹寧高速(たんねいこうそく)・水陽(すいよう)区間の厳坪村(げんぺいそん)2号橋が突然崩れ落ち、多くの車が川へ転落します。当局の発表では、川に落ちた車は25台、死者・行方不明者は62人。直接の経済損失は1億5751万元、日本円でおよそ31億円に上りました。
事故直後、世間はこれを「鉄砲水による天災」と受け止め、国営メディアも「100年に一度の豪雨」を繰り返します。調査の結論だけを見れば、それは間違いではありません。2025年3月の災害調査報告は、崩落の主因を「水」としました。流水の圧力、漂流物が橋脚を押す力、流木がせき止めた水の抵抗。寄与はそれぞれ約35%、57%、8%とされ、橋脚や杭の鉄筋、コンクリートの品質問題ははっきり否定されています。構造の計算上、これは確かに「水が起こした災害」でした。
ところが同じ報告書は、崩落を「招き寄せた重大な誘因」として、建設と検査の各段階に深刻な不正があったとも指摘していました。2026年6月、応急管理部(おうきゅうかんりぶ)はこの事故を、書類偽装が災害を招いた「典型的な不正事例」として改めて名指しします。
品質の番人であるはずの監理会社・北京華宏(ペキンかこう)は、施工会社が設計図どおりに造らないことを、違反と知りながら黙認しました。橋脚をつなぎ力を分散させる「系梁(けいりょう)」の位置を、設計より引き上げることを認めてしまう。日誌には実態が書かれず、図面と現場の食い違いを知りながら、もとの図面のまま完成検査が進みます。最後の砦であるはずの検査機関・旧陝西交建(きゅうせんせいこうけん)も同じでした。杭の長さが設計と大きく違うと気づきながら報告せず、杭のデータと超音波の波形まで書き換え、「基準を満たす」とする偽の報告書を作ったのです。
施工は図面を無視し、監理は見逃し、検査はデータを書き換える。互いを点検し合うはずの三重のチェックが、一つの橋で同時に死んでいました。
数字を素直に読めば、あの夜、橋を押し倒したのは洪水です。「不正さえなければ無事だった」とは言い切れません。けれど問題はそこではない。三つの目は、一つがごまかしても別の目が止めるためにあります。その三つが揃って嘘をついたとき、私たちは「この橋は安全だ」と確かめる力そのものを失う。署名も、波形も、検査報告書もあった。そのすべてが嘘だったなら、何を信じて橋を渡ればいいのでしょうか。
ネットにはこんな声が並びました。「設計が変えられ、データが書き換えられ、検査まで偽装されていたなら、洪水が橋を壊したのではない」「では、同じ手続きを通りながら、まだ落ちていない橋はどれだけあるのか」。
陝西の一件は、特別な例外ではありませんでした。2025年8月22日未明、建設中だった西寧(せいねい)・成都(せいと)鉄道の尖扎黄河特大橋(せんさつこうがとくだいきょう)の工事現場で大規模な崩落が起き、13人が死亡、3人が行方不明となります。2026年4月の青海省(せいかいしょう)の調査報告は、これを「重大な生産安全責任事故」と認定しました。橋を仮に吊り支える「扣塔(こうとう)」からケーブルで橋桁を引っ張る工法でしたが、その要の接合部に、規格外の粗悪なボルトが違法に使われていた。耐力は国の基準より約41%も低く、取り付け時には穴が合わず現場で雑に広げられ、強度をさらに損ねていました。最大荷重がかかった瞬間、ボルトがせん断破壊を起こして接合部が断裂し、吊り下げシステム全体が崩れ落ちます。
事故後、犯罪の疑いで11人が司法へ送られ、42人が処分を受けました。それでも世間は「粗悪なボルトのせい」では納得しません。巨額が投じられた国家事業で、本当に数本のボルトが全体を決めたのか。その奥に、下請けの多重構造や形だけの検査という慢性的な機能不全があるのではないか。そう問う声が続きました。
性格は違うものの、人々の不安を同じ方向へ押しやる出来事もあります。2026年3月18日、山東省(さんとうしょう)臨沂市(りんぎし)費県(ひけん)の大王庄橋(だいおうそうきょう)で、大型トレーラーが渡る最中に橋の一部が落ち、1人が軽傷を負いました。ただこれは、前の二つとは原因が違います。大王庄橋はもともと生活道路の古いプレキャスト桁橋で、想定荷重はせいぜい数十トン。小型車や農作業の車のための橋でした。この日のトレーラーは積荷を含め100トン近くあったとされ、当局は当初「深刻な過積載」を主因と見ています。建設の不正ではなく、老朽化した非力な橋に桁外れの重量がのしかかった、過積載と維持管理という別系統の問題です。
それでも映像が広がると、人々の目は崩れた断面に集まりました。鉄筋が見当たらないように見えたのです。もっともこれは映像の印象で、当局が手抜きを認定したわけではなく、プレキャスト桁では断面に鉄筋が現れないこともあります。それでも人々がこれほど敏感に反応したのは、すでに別の橋で「書類は合格、中身は偽装」という現実を見せられた後だったからでしょう。
過去20年あまり、中国では建物や道路、橋の品質をめぐる問題が繰り返し表に出てきました。壁のひび割れ、校舎の倒壊、道路の陥没、橋の崩落。調査のたびに同じ言葉が並びます。手抜き工事、違法な施工、形だけの完成検査、放棄された監督責任。
誤解してほしくないのは、「中国の橋はどれも危ない」という話ではないことです。インフラの大半は、今日も問題なく人と車を支えています。本当に背筋が寒くなるのはそこではない。施工と監理と検査が揃って嘘をつけてしまうとき、私たちは「どの橋が安全か」を見分ける力そのものを失います。署名があっても、データがあっても、検査報告書があっても、信じられないなら、合格の印に意味はありません。
すでに崩れた橋の真相は、長い時間をかけてようやく明らかになりました。では、まだ崩れていない橋はどうでしょう。今この瞬間も、一度も正しく測られたことのない検査報告書に支えられたまま、当たり前のように人と車を渡している橋は一つもないと、誰が言い切れるのでしょうか。
(翻訳・藍彧)
