中国山西省忻州市寧武県(きんしゅうし ねいぶけん)で、万里の長城が露天掘り炭鉱によって長年にわたり破壊されていた問題が、いま大きな波紋を広げています。
中国メディア「遼瀋晩報」の報道によると、寧武県に残る明代の長城は山西省の文化財に指定されています。しかし、山西忻州神達朝凱煤業有限公司が長期間にわたり採掘区域を越えて違法採掘を続け、さらに無断で廃土を投棄し、輸送用道路まで勝手に開削したことで、長城の複数箇所が崩壊しました。城壁は途中で真っ二つに寸断され、文化財本体に回復不可能な損傷が発生しました。
寧武県は山西省北部に位置し、歴史的に明代の重要な辺境防衛の要衝として知られています。公開資料によれば、現地にはおよそ39キロにわたって明代の長城が残されており、その多くは版築構造で築かれたものです。これは明代の山西北部防衛システムを示す重要な遺構でもあります。
現地の文化財保護部門は、長城本体の両側10メートルを保護区域、その外側200メートルを建設制限区域に設定し、保護境界標識や注意看板も設置していました。これらの区域では原則として破壊的工事は禁止されており、大規模な鉱山開発が直接侵入することなど、本来あってはならないことでした。
しかし現実は衝撃的なものでした。
神達朝凱煤業の鉱区周辺では、長城の各所が無残な状態となっており、多くの箇所で永久的な破壊が確認されています。中でも「郭家窯(かくかよう)」区間では、2015年に地滑りが発生しました。その後2018年までに、およそ100メートル以上にわたる城壁が完全に崩落しました。版築の基礎部分もほぼ完全に失われ、かつて連続していた城壁は、いまや崩れた土の斜面へと変わり果て、歴史的景観は完全に失われています。
崩壊を直接引き起こした原因は、同社が2014年から2018年にかけて、長城の保護区域内で違法に越境採掘を行い、大量の鉱滓を投棄したことでした。
大型車両による長年の通行と、鉱滓(こうさい)の継続的な重量負荷によって地盤が緩み、斜面が不安定化し、数百年もの風雨に耐えてきた長城の城壁は、ついに耐え切れなくなったのです。
さらに問題は崩落だけではありませんでした。
長城本体には人為的に複数の巨大な穴が開けられ、炭鉱輸送用の通路として利用されていたことも判明しました。
衛星リモートセンシング画像や現地目撃者の証言によると、郭家窯村の長城に開けられた穴は、同炭鉱が企業統合される以前の旧企業によって、2007年前後に強行的に掘削されたものだといいます。目的は輸送車両を通すためでした。
また、半山村付近では、長さ5メートル、幅8メートル、高さ約3メートルに及ぶ巨大な切り口が確認されており、長城は完全に途中で断ち切られていました。本来連続しているはずの長城遺跡は、ここで完全に分断されてしまったのです。
現場では、保護境界標識の内側にまで鉱山作業区域が侵入しており、版築断面がむき出しになった状態で深刻な風化が進行し、文化財としての景観や歴史的構造は著しく破壊されていました。
実は、寧武長城の悲劇は決して特別なケースではありません。
2023年には、同じ山西省朔州市右玉県(さくしゅうし ゆうぎょくけん)でも、省級文化財保護単位である「三十二長城」が壊滅的な被害を受けています。
当時、近隣で工事を行っていた作業員2人が、遠回りを避けるためにショベルカーで脆くなっていた明代の長城を直接掘削し、巨大な穴を開けてしまい、長城の完全性と文化財としての安全性に回復不能な損傷を与えました。
今回の寧武事件がこれほど大きな批判を呼んだ理由のひとつは、問題企業による違法行為が今回が初めてではなかったことにあります。
むしろ、度重なる行政処分を受けても違法行為が止まらず、ついに世論が爆発した形です。
中国の企業信用情報サイト「信用中国」の公開情報によると、2026年だけでも神達朝凱煤業は複数回の行政処分を受けています。
2026年3月23日には、露天で石炭を保管し、密閉措置を取らなかったなどの違反により、忻州市生態環境局寧武支局から約400万円(17万元)の罰金を科されました。
2026年3月25日には、文化財の建設制限区域内で、文化財部門の承認を得ないまま工事を行い、歴史的景観を破壊したとして、寧武県文化観光局から約1170万円(50万元)の罰金処分を受けています。
その後も違法行為は止まらず、2026年4月28日には、再び無断工事を行ったとして、同じく約1170万円(50万元)の罰金が科されました。
わずか2か月で合計約2700万円(117万元)の罰金が出されたにもかかわらず、違法行為は止まらなかったのです。
現地住民によれば、長年にわたり長城破壊について何度も関係部門へ通報してきたものの、問題は一向に解決されなかったといいます。
企業情報サイト「天眼査APP」によると、神達朝凱煤業有限公司は2013年2月6日に設立され、法定代表者は王建軍で、露天掘りによる石炭採掘を主業務とし、年間120万トン規模の開発計画を持っています。
さらに前身企業までさかのぼると、長城への違法掘削は2007年前後からすでに始まっていました。企業統合や再編を経ても破壊行為は途切れることなく、20年近くにわたり歴史遺産への侵害が続いていたことになります。
この問題がメディアで大きく報じられると、世論は急速に加熱。現地政府も対応を迫られました。
5月20日、山西省寧武県党委員会宣伝部は公式発表を行い、現段階の調査結果として、問題企業に対し操業停止と是正命令を出したことを明らかにしました。
また、関係者4人については、違法採掘罪および文化財損壊罪の疑いで刑事強制措置を実施しました。今後さらに証拠を固めたうえで、検察機関へ送致するとしています。
さらに、監督部門の職務怠慢なども調査対象となっており、紀律検査・監察部門が関係職員への調査を進め、厳正に処分する方針を示しました。
中国の刑事法体系では、省級文化財保護単位の文化財を故意に破壊した場合、3年以下の懲役または拘留、もしくは罰金が科されます。情状が重大な場合は、3年以上10年以下の懲役と罰金が科される可能性があります。
また「長城保護条例」では、人為的原因による長城破損の修復費用は全額責任者負担と規定されており、犯罪に該当する場合は刑事責任も追及されます。
つまり、神達朝凱煤業は今後、刑事責任を追及されるだけでなく、破壊された長城の修復費用まで負担しなければならない可能性があります。
しかし、すでに崩落した100メートル以上の版築城壁や、人工的に切り開かれた巨大な穴に刻まれていた歴史情報は、永久に失われてしまいました。
本当の損失は、金額では到底測れないものです。
万里の長城は、中国を代表する世界遺産であると同時に、ユネスコが「顕著な普遍的価値」を持つと認定した人類共通の遺産でもあります。
今回の事件が浮き彫りにした問題は、単なる一企業の違法行為にとどまりません。
文化財保護制度そのもの、そして法執行システムが現場で本当に機能していたのか。その根本が、いま厳しく問われています。
この事件の今後の展開にも、引き続き注目が集まりそうです。
(翻訳・藍彧)
