2026年1月、冬の寒さが厳しさを増す中、中国の新エネルギー車(NEV)市場の片隅で、異様な熱気が渦巻いていました。大手メーカーが決算セールでしのぎを削る一方、SNSでは「倒産したメーカーの在庫車を定価の4割(6割引)で底値買いする」という話題がトレンド入りしています。これは、圧倒的なコストパフォーマンスと巨大なリスクが隣り合わせのギャンブルです。

 2023年以降、中国のNEV業界は淘汰の加速期に入り、かつて市場を賑わせた威馬(ウェイマー/WM Motor)、高合(ガオハー/HiPhi)、哪吒(ナタ/Neta)、極越(ジーユエ/Jiyue)といったブランドが一夜にして消え去りました。過去5年間で400社以上が撤退し、数百万台もの「持ち主のいない在庫車」が残されたといいます。2025年11月末時点で、中国の乗用車在庫台数は過去最高の379万台に達しました。

 こうした冷徹なデータの裏側にあるのは、若者たちによる消費の狂宴です。26歳の林輝さん(仮名)にとって、これは単なる車の購入ではなく、ある種の「ステータス上昇」の幻覚を体験する行為でした。彼の予算はわずか8万元(約182万円)。かつてこの金額では、装備も貧弱な合弁ブランドのガソリン車しか選べませんでした。しかし、2026年の「訳あり車」市場において、8万元は「ラグジュアリー体験」への入場券となります。林さんは最終的に、新車の「哪吒L(Neta L)」最上級グレードを選びました。2年前の発売価格は15万元(約342万円)近かったモデルですが、彼は諸費用込みでわずか7.77万元(約177万円)で手に入れたのです。

 「運転席に座った瞬間、そのメーカーがもう存在しないことなんて忘れてしまいます」。林さんは語ります。巨大な連結スクリーン、本革シート、ゼログラビティ・ナビシート……同価格帯の一般的な車では想像もできない装備が、今や手の届くところにあります。市場には同様の誘惑があふれています。かつてポルシェをライバル視していた「高合 HiPhi Y」は、定価33.9万元(約773万円)から12万元(約273万円)まで暴落。「極越07」ロングレンジ版は22万元(約502万円)から15万元(約342万円)で取引され、さらに極端な例では、3万元(約68万円)の「威馬EX5」がまるで白菜のように野外駐車場に積み上げられています。

 これは単なる「安物買い」ではなく、経済不安が増大する中での「消費のダウングレード」における苦渋の選択です。若者たちは生活の質に対する美的欲求を下げてはいませんが、財布の中身が追いつきません。その結果、倒産したメーカーの遺産が、彼らが「体裁」を保つ唯一の頼みの綱となりました。「今、手に入れること」と「長期的な保証」を天秤にかけ、彼らは前者を選んだのです。

 しかし、林さんが車を家に持ち帰った瞬間から、この賭けの「後半戦」が幕を開けます。NEVと従来のガソリン車の最大の違いは、「ソフトウェアが車を定義する」点にあります。メーカー倒産はクラウドサーバーの停止を意味し、ネットワークに依存したスマートカーにとって、それは「脳死」に等しいのです。多くのオーナーはすぐに、自分が手に入れたのが現代的な移動手段ではなく、走る「サイバー廃墟」であることに気づかされます。

 最初の症状はスマホアプリの機能不全です。リモート操作やBluetoothキーはサーバーダウンと共に無力化します。続いて車載システムが麻痺し、OTAアップデートが止まった地図データは2年前のまま。新設された高架橋の上でナビは狂ったように回転し、音声アシスタントはただの黙ったディスプレイと化します。ハードウェアは輝きを放ち、LiDARは回転していますが、それらを制御する魂は消え失せています。これはポスト工業化時代の皮肉に満ちた「ハイテクのゴミ」であり、オーナーたちは時代に取り残された孤独を感じながら都市を彷徨うことになるのです。

 デジタル世界の静寂と共に、公式アフターサービスも崩壊しました。これによって、野蛮とも言える「地下エコシステム」が出現しています。ディーラーが閉店し部品供給が絶たれると、オーナーたちはWeChatやフリマアプリで生存者同盟のようなネットワークを結成します。そこには定価など存在せず、需給のみが支配する「闇市」が広がっています。ベテラン整備工場の張さんは言います。「今一番怖いのは故障ではなく、ぶつけることです」。消耗品は代用できても、外装や特定電子部品は「一つ壊せば、世界から一つ減る」状態だからです。

 オーナーたちが必死に自衛策を講じても、保険と流通という深刻なリスクがのしかかります。金融システムの嗅覚は鋭く、多くの保険会社がこれら「絶版車」の任意保険引き受けを拒否、あるいは保険料を大幅に引き上げています。オーナーはやむなく強制保険のみで走行し、事故が起きれば巨額の賠償を自己負担せねばなりません。「丸裸」で公道を走るようなもので、外出自体が心理戦となります。また、中古車市場での価値はほぼゼロ。「鉄くず同然」の価格でしか売れず、オーナーはジレンマに陥ります。売れば大損害、売らなければ致命的故障に怯える日々。

 「これは安全ピンを抜いた手榴弾を握っているようなもの。いつ爆発するかわからないが、見た目は高そうだから捨てられない」。あるオーナーの自嘲気味な言葉が全てを物語っています。

(翻訳・吉原木子)