「他人に接する時『理に適う』必要はありますが、『人に容赦ない』ことは絶対行うべきではありません」(イメージ / Pixabay CC0 1.0)

 非常に徳が高く人望も厚いある高僧が、信者から夕食会に招かれたので、弟子を伴って行きました。

 食事中、高僧はテーブルの上に並んだ美味しい精進料理の自分の前の皿の中に、ひと切れの豚肉が紛れているのを発見しました。高僧の弟子もそれを見付けたので、わざと箸でその豚肉をひっくり返し、向かい側の主人に気付かせて料理人を罰するように仕向けました。

 意外にも、弟子が豚肉をひっくり返すと、すぐに高僧はその肉を箸で覆い隠しました。しばらくして、なおも怒りが治まらない弟子は、又わざと箸でその肉をひっくり返しました。これを見た高僧は、再び箸で肉を覆い隠し、弟子にこっそり「あなたが再び豚肉をひっくり返したら、私はそれを食べますよ」と耳打ちしました。

 弟子は高僧の耳打ちを聞いて、豚肉をひっくり返せなくなりました。ただ食事を続けていると、とうとう一人の食客がその肉片を見付けてしまいました。
主人は面目を失ったと感じ、調理した料理人を探させようとしましたが、高僧が笑顔で主人に手を振り、その肉を箸で挟み端に除けて、さりげなく食事を続けたので、気まずい雰囲気も和らぎました。

 夕食も終わり、高僧は夕食会を主催した主人に別れを告げました。

 お寺に戻る途中、弟子はまだ怒った様子で「お師匠様、さっきの夕食会の料理人は、我々出家人が肉を食べないことを知っています。テーブルの上は全て精進料理でした。なぜ彼はわざと豚肉を精進料理に入れたのでしょうか?私はあの主人に知らせて意地悪な料理人に罰を課して貰うために、箸で豚肉をひっくり返したのです!」と問いました。

 高僧は淡々と「故意であれ不注意であれ、誰もが間違いを犯す時がある。もし、私達があの主人に料理に紛れた豚肉を見せたら、主人は激怒してその場で料理人を罰する可能性が高い。ひいては料理人をクビにする可能性もある。それは全て、私が望む結末ではない。もちろん私達が他人に接する時『理に適う』必要はありますが、『人に容赦ない』ことは絶対行うべきではありません」と答えました。

 これを聞いた弟子は「はっ!」と悟り、恥ずかしくなり頭を垂れて、高僧に「私が間違っていました。あまりにも無謀でした!」と謝りました。

(翻訳・灯火)