明・戴進『春遊晩帰の図』(一部)(パブリック・ドメイン)

 ようやく、春が帰って来ました!

 冬の深い眠りから蘇り、暖かい風に吹かれて、万物が彩るこの季節。友達を誘い外出して、春の息吹を感じるのにちょうどいい時期です。

 古代中国では、この春の行楽を「春遊(しゅんゆう)」と呼び、その内容は大層豊富なのでした。自然の風景を楽しみながら、草花を摘み、狩りをして、ピクニックからカイト飛ばしまで、様々な楽しみ方がありました。

 古代中国人にとっては、春遊が大事なイベントの一つでもあります。これは古代中国の絵画から垣間見えます。例えば、明王朝期に活躍した画家・戴進(たい・しん)の作品『春遊晩帰の図』では、暖かな春を精一杯楽しんできた主人公が夜遅くに家に着いた情景が描かれています。

 今回は、『春遊晩帰の図』の主人公と共に、春の行楽を楽しんでみましょう!

春うらら 『春遊晩帰の図』

明・戴進『春遊晩帰の図』(パブリック・ドメイン)

 『春遊晩帰の図』が描くのは、霞がかかりながら、桃の花が咲き誇る江南の春。絵の中の主人公が春遊から帰ってきた情景です。

 作品全体は江南の田舎の雰囲気を全面的に醸し出しています。下方の前景では屋敷が描かれており、外壁から伸び出した木の枝と、通りに咲いている桃の花は、春の情景を表現しています。扉を叩く人に応じて、灯籠を手に取って従者が扉を開けに駆けつけてきているので、春の行楽を楽しんできた屋敷の主が夜遅くにようやく家に帰ってきた情景を生き生きと描写しています。

 一方、中央の畑の歩道の中景では、二人の農夫が鍬を肩に載せて家路について言います。家路の先にある農家の庭には、一人の農婦が鶏に餌やりをしています。これらの人物は小振りでありながら、一目でわかるような生き生きとした動きが描写され、作者の細やかな観察の眼と細部への拘りが感じ取れます。

 この作品は、筆遣いから色使いまで極めて繊細で、優雅な雰囲気を醸し出します。色使いにおいて、淡麗な緑をメインカラーにして、色の濃淡と明暗の対比を巧妙に配分して、明快な画面を切り開きながら、細部に薄黄色と軽やかな白色を加え、画面に温かみをも添えました。作者の田園生活への愛情を反映しているだけでなく、春の活発で爽やかな雰囲気を表現しています。

浙派山水画の随一の画家 戴進

 『春遊晩帰の図』を描いたのは、中国・明王朝期を活躍した戴進(1388〜1462)です。字(あざな)は文進、号に静庵と玉泉山人があり、山水画と人物画に長けていました。

 戴進は、山水画作品の題材選びを工夫していました。作風は南宋王朝期の画家・馬遠(ば・えん)と夏珪(か・けい)を吸収し、繁々と生える草木やごつごつとした険しいほど雄大な山を描くのを得意としながら、馬遠と夏珪より荘厳壮麗な雰囲気を出すことに重みを置きました。また、北宋王朝期の李成(り・せい)や范寛(はん・かん)、郭熙(かく・き)、李唐(り・とう)、董源(とう・げん)などの画家から学びを得て、奔放で流麗な墨線と秀逸な技巧を駆使し、力強い画境を切り開きました。南宋の宮廷画家の院体画(いんたいが)の写実さもあれば、元王朝期の水墨画の魅力あふれる雰囲気も併せ持つため、戴進は「浙派山水画の随一の画家」と讃えられました。

 古代中国人は自分の人生観を日常生活に結び付け、これを書画芸術などの方法で表しています。これらの書画芸術作品からは、作者が伝えたいメッセージを感じ取ることができます。観客が『春遊晩帰の図』から感じ取った静かで淡泊な境地は、おそらく、戴進がこの絵を描いた当時に追求した境地そのものかもしれません。

 現代を生きる私たちは、絵画を通じて自分の気持ちを表すことが難しいかもしれませんが、外に出て、春の素晴らしさを感じ取ることができるのではないでしょうか。『春遊晩帰の図』の中の主人公のように、天気の良い日で「春遊」を催し、夜遅くまで春を楽しむことも、また一興かもしれませんね!

(文・韓雨薇/翻訳編集・常夏)