中国経済の低迷と未完成物件の大量発生により、多くの住宅所有者が住宅と財産を共に失い、中産階級の財産が激減しました。その結果、住宅ローンの返済を停止せざるを得なくなる人が増え、銀行の住宅ローン不良債権が急増しています。

 さらに、3年間の新型コロナウイルス流行後、中国では新たな謎の時限爆弾が現れ、銀行の不良債権をさらに激増させています。それは「プロ債務者」という闇産業です。

信用を失って得た利益

 シンガポールの「聯合早報」2023年12月3日の記事によると、中国当局が公式サイトで公開したデータによると、2022年12月2日時点で、中国国内の「信用喪失被執行者(信用喪失で処分を執行された人)」の数は854万2322人に達し、2020年初めに比べて約50%増加したことが明らかになりました。

 英国「フィナンシャル・タイムズ」の記事によると、これら854万人以上の信用喪失被執行者のほとんどは、18歳から59歳の間で、中国の労働人口の1%を占めています。中国はこれらの信用喪失被執行者を「老頼(ろうらい)」と呼んでおり、中国語の「老頼」は「借金を踏み倒す人」を指します。中国政府の規定によると、このブラックリストに載った者は、航空券の購入や星付きホテルでの宿泊ができないなど、さまざまな制限を受けることになります。

 これらの「借金を踏み倒す人」の多くは、一生その運命を背負うことになるが、近年、「プロ債務者」と呼ばれる人々が、このグループの中で最も神秘的な存在として注目されています。

 「プロ債務者」とは、他人の代わりに借金を背負うことを専門とする人々です。彼らは主に不動産業界に集中しており、半年以内に数百万元(約数千万円)の現金収入を得ることが可能だが、その代償として数百万元から数千万元の住宅ローンの負債を一生背負うことになり、銀行から信用喪失者のブラックリストに載せられます。

 新幹線や飛行機に乗ることができず、星付きホテルにも泊まれないが、短期間で大金を得ることができるため、この職業は中国で闇産業チェーンとして発展しています。TikTok(ティックトック)や小紅書(シャオホンシュー)などのプラットフォームでは、隠し言葉で表現されたプロ債務者を募集する広告が大量に存在します。

 例えば、もしもあなたが金銭的に非常に困っている場合、借金の仲介業者と連絡が取れれば、その仲介はあなたを二、三線都市のホテルに連れて行き、食事などを提供します。あなたは銀行カードと身分証明書を仲介に渡すだけで、他のことは何も気にする必要がありません。2、3日おきに、仲介が食べ物などを届けると当時に、あなたの銀行口座にも次々と入金されます。

 例として、500万元(約1億円)の物件があるとします。仲介業者はあなたの名義でその物件を購入し、150万元(約3千万円)の頭金のみ支払います。その後、銀行の内部スタッフや政府の役人を通して、ローン承認のための各種書類を処理し、銀行の審査部門から350万元(約7千万円)のローンを組みます。さらに、購入したその住宅を担保にして、様々な二次抵当ローンを組み、総額で600万元(約1億3千万円)に達します。

 あなたがホテルで約半年間滞在し、すべての手続きが完了した後、最終的には150万から200万元(約3千万円から5千万円)の現金を手に入れることができるが、その代償として生涯にわたり950万元(約2億円)の借金を背負うことになり、銀行の信用ブラックリストに永久に名前が記載されることになります。

 600万元の二次抵当ローンに関しては、仲介業者、プロ債務者、銀行の内部関係者が事前に合意した割合で分配されます。通常、各当事者が約30%の割合を取ります。

 プロ債務者によって背負われたローンや借金は、実質的に銀行融資の不正取得です。中国の法律では「詐欺による不正融資」という罪が存在するが、銀行員が関与しているため、一般的にプロ債務者が起訴されることはありません。その結果、数百万元(約1億円)の不良債権は政府によって償還されます。とは言っても、中国当局には銀行の不良債権を切り離す様々な方法があり、はっきり言えば、最終的には国民の税金で返済されることになります。したがって、これは銀行の預金者や投資信託者にとって潜在的なリスクです。

 プロ債務者産業は、今や中国の銀行業界の公然の秘密となっています。河南省の村銀行で預金者の預金が突然消えた事件と同様に、本当に何か問題が発生した場合、中国当局と銀行は責任を完全に回避し、その責任を銀行の臨時職員の仕業だとか、預金者自身の不適切な資産管理だとか言って片付けます。プロ債務者は主に企業融資、住宅ローン、自動車ローンの分野に現れるが、特に住宅ローンの分野に集中しています。

底辺層がプロ債務者へと追い込まれる

 中国国家発展改革委員会の下部機関が2023年12月に発表した「中国収入分配年次報告2021」によると、月収1090元(約2万3000円)以下の人口は6億人に達し、全人口の42.85%を占めています。さらに、月収2000元(約4万3000円)以下の人口は9.64億人に及びます。

 これら低所得層は、ほとんど貯金がなく、家庭で発生する突発的な事態、たとえば家族の突然のがん発症などに対処できません。闇仲介業者や中国政府系銀行内部の関係者は、これを商機と見て、制度の抜け穴を利用し、SNSの闇広告を通して、金欠や信用に無頓着な社会の底辺層を大量に勧誘しています。

 社会の底辺層がプロ債務者になることは、実際には高いリスクを伴います。もし仲介者や銀行の内部関係者が報酬を支払わなければ、プロ債務者は無駄に時間を費やすだけでなく、一生の借金を背負うことになります。また、プロ債務者という職業は不名誉なものであり、一生を社会の陰で過ごすことになります。

 多くのプロ債務者は稼いだお金を家族の口座に預け、自身の口座には一切預金を入れず、口座の凍結を避けます。子供の将来に影響を与えないよう、配偶者と離婚することを選ぶ人もいます。

 一度プロ債務者になると、ほとんどの場合、その状態から脱して潔白を取り戻すことは不可能です。政府背景を持つわずかな人だけが、警察やその他の政府部門の官僚に賄賂を提供し、自分の戸籍を死亡として抹消後、新しい名前で合法的な新しい戸籍を登録することにより、自身の状態を「潔白」にすることができます。

 上海文盛資産管理社の姜涛(きょうとう)総裁は、「2023年中国不良資産春季フォーラム」で、現在金融システム内には約10兆元(約213兆円)の不良資産が存在し、2025年には金融不良資産が約20兆元(約427兆円)に達し、銀行貸出残高の10%を占めるだろうと述べました。

 プロ債務者産業の発展に伴い、中国金融業界の不良資産率は引き続き上昇すると予想されます。このプロ債務者産業が、中国金融危機を引き起こす可能性のある謎の時限爆弾となるかもしれません。

(翻訳・藍彧)