中国に進出している外資系企業は、6四半期連続で1600億ドル(約24兆円)以上の利益を中国から引き揚げており、中国への海外直接投資(FDI)は初めて赤字となりました。この状況下、李強首相が11月5日、上海で開催した第6回中国国際輸入博覧会の開幕式の演説で「一段と対外開放を進める」と強調し、中国への投資拡大を訴えましたが、何の役にも立ちませんでした。

外資系企業にとって、中国の魅力が低下中
 中国は世界貿易機関(WTO)への加盟から約20年間、急速な経済成長を遂げ、外資系企業は中国で得た利益を再投資してきました。しかし、新型コロナウイルス(中共ウイルス、SARS-CoV-2)のパンデミックが発生した後、外資系企業や直接投資が中国から相次いで撤退しています。

 中国の公式データの分析によると、2023年9月末まで6四半期連続で、外資系企業は中国から利益を引き揚げ、その総額は1600億米ドル(約24兆円)を超えたと、ウォール・ストリート・ジャーナル紙11月7日の報道で報じました。この異例の状況は、世界第2位の経済大国である中国が外資系企業からの魅力を失いつつあることを示唆しています。利益の持続的な流出は、中国の2023年の第3四半期の海外直接投資が25年ぶりに初めて減少しました。

 外資系企業による利益の流出は、人民元の価値を下落させる傾向に寄与しています。中国人民銀行(中央銀行)は人民元安の傾向を緩和しようと努力していますが、人民元は今年に入ってからドルに対して5.7%下落し、2023年9月7日には中国本土市場で、16年ぶりの安値を記録しました。これにより、中国の経済と金融市場に対する悲観的な見方が広がっています。

 人民元は一時、約0.2%下落して、1米ドル=7.3294元となりました。オフショア取引でも同様の下落が見られました。

 総合的に見ると、外資系企業の利益が流出する要因は複数あります。その中の1つは、中国の銀行金利と欧米諸国の金利の差が拡大し続けていることで、利益を欧米諸国に預けることでより多くの金利を得ることができるためです。米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめとする他国の中央銀行は、インフレ対策のために金利を引き上げている一方、中国の中央銀行は長期にわたり低迷している不動産市場を救済するために金利を引き下げ続けています。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道によると、中国に進出しているアメリカ、ヨーロッパ、日本の企業を対象にした最近の調査では、中国と台湾の軍事衝突の可能性や、中国当局が国内・外国企業に対する規制を強化していることから、外資系企業の経営陣が中国への投資に不安を抱いているという結果が示されました。

 カナダを拠点とする航空宇宙および防衛電子製品およびサブシステムを提供する会社、「フィラン・テクノロジー・グループ(Firan Technology Group Corp)」社の最高経営責任者(CEO)であるBrad Bourne(ブラッド・ボーン)氏は、2022年と2023年の第1四半期に、同社が中国から約220万カナダドル(約2.4億円)の収益を引き揚げたと述べました。同社は過去10年間で、中国での事業拡大のために800万から1000万カナダドル(約8.8億円から11億円)を投資してきました。

 ボーン氏は、米中関係の悪化が同社の懸念の1つであると語りました。「中国と西側諸国およびアメリカとの緊張関係がどのように変化するかについては、不確実性が高まると考えていいだろう。したがって、資金をそこに置くことには一定のリスクがあるだろう」と述べました。

 一部の多国籍企業の経営陣は、中国から利益を移動させていると明かしましたが、詳細は明らかにされていません。

 2022年初から、海外の金融機関は約1100億米ドル以上の人民元建て中国債券の保有を減少させています。この削減の波は、ロシアがウクライナに侵攻した月に始まりました。一部の関係者、中国への資産投資に伴う地政学的リスクが減少の主要な原因の1つであると考えています。

 2022年に入ってから、中国国債の収益率は10年以上ぶりに同期のアメリカ国債を下回りました。その後、この差は拡大し続けています。

 中国公式が公表した国際収支データによると、中国への外資直接投資が四半期ベースで初めて赤字となりました。中国の公式データによると、今年の第3四半期における直接投資負債は118億米ドル(約1.8兆円)の赤字となりました。

 このデータは、中国の外国為替規制当局が1998年にデータの集計を開始して以来、四半期ベースで初めての赤字、すなわち、資金流出が流入を上回ることを示しています。

中国における外資系企業の撤退と雇用削減
 一方、外資系企業の撤退と雇用削減が進行中です。在中国日本商工会が2023年9月に実施した調査によると、回答者の半数近くが2023年に中国への投資を行わないか、または2022年に比べて投資規模を縮小する意向を示しました。同様に、在中国米国商工会の最近の調査でも、66%の会員が米中関係間の緊張の高まりにより、中国でのビジネスが困難になると回答しています。

 米国は過去数年、中国への半導体チップや人工知能への投資に関する規制を強化し、外資系企業の中国への投資意欲に大きな打撃を与えました。また、中国は2023年7月1日から施行された改正「反スパイ法」で、スパイの定義範囲を拡大し、これも外資系企業の経営陣に不安を引き起こしています。

 米国のバンガード・グループは、中国市場から撤退する最終段階に至っており、コンサルティング会社ギャラップも中国国内の全オフィスの閉鎖を進めています。他の多くの多国籍コンサルティング企業も、中国での事業を縮小するための措置を取っています。

 11月3日にブルームバーグが報じたところによると、米国の資産管理会社であるバンガード・グループは、中国の共同基金市場で29兆元(約596兆円)に及ぶオフィスを閉鎖するための最終段階の手続きを進行中です。情報源によると、バンガード・グループは上海に残る約10人のスタッフと、すでに解雇に関する合意に達しており、その中には中国ビジネスの責任者も含まれています。ほとんどのチームメンバーは来年初めまでに退職する予定で、そのオフィスも閉鎖される見込みです。

 また、関係者によると、バンガード・グループは、中国フィンテック企業アント・グループとのロボアドバイザー合弁事業からの撤退も計画しており、すでに同事業の株式49%を売却しました。

 英紙フィナンシャル・タイムズの報道によると、米コンサルティング会社ギャラップは先週、中国からの撤退を顧客に伝え、一部のプロジェクトは中国国外に移転し、他のプロジェクトは中止される予定です。ギャロップは世界でも有名な世論調査会社の1つで、1993年に中国市場に進出し、30年にわたり中国で事業を展開してきました。

李強首相の努力が無駄に?
 中国当局は11月5日から10日まで、上海で中国最大級の博覧会である第6回「中国国際輸入博覧会(CIIE)」を開催しました。これは習近平氏が2018年に立ち上げた年次博覧会で、中国の公式な貿易政策を国際社会にアピールすることを目的としています。

 李強首相は5日の午前に同博覧会に出席し、基調演説の中で、中国は世界貿易機関(WTO)の加盟から一帯一路構想まで、対外開放は決して止まっていないことを強調しました。また、中国の人口は14億人を超え、そのうち4億人以上が中所得層であり、市場需要の潜在力が非常に大きいことを強調しました。

 しかし、今回のCIIEが開幕する直前、在中国欧盟商工会上海支部は11月3日に調査結果を発表し、CIIEが中国当局の「政治的なショーケース」となっており、外資系企業がCIIEに参加するメリットが限られていることに失望していると批判しました。このことから、李強首相の努力が外国企業には十分に受け入れられていない可能性が示唆されています。

(翻訳・藍彧)