中国では最近、温めるだけで食べられる調理済み食品「預制菜(ユゥズーツァイ)」が話題になっています。話題となった主要な原因は、コロナの流行期間中に多くの地域でPCR検査を請け負った深セン市核子基因科技有限公司(以下、核子基因社)の創業者である張核子氏が、新しい会社を設立し、預制菜業界に参入したからです。

 張核子氏がすでに儲けらないPCR検査関連の会社を解散し、同時に新しい会社を設立していることが注目を浴びています。

 情報筋によると、預制菜業界の背後には中国共産党の有力者が関与している可能性があるとされています。

中国の「預制菜(調理済み食品)」問題

 「預制菜(ユゥズーツァイ)」とは、あらかじめ加工・調理された食品を指し、包装後に直接または簡単な調理のみで食べることができるもので、日本での惣菜や半加工食品、調理済み食品などを指します。

 ラジオ・フリー・アジア9月19日の報道によると、中国の企業が製造した預制菜には多量の食品添加物と防腐剤が含まれており、現在、主にレストランやファーストフード店で使用されています。

 最近、中国の各地方政府の教育局が、企業に対して「預制菜」を学校に提供することを奨励していますが、保護者から強い反対が出ています。浙江省、広東省などの地域の保護者たちは、学校への「預制菜」導入を止めるよう地元政府に要請しています。

 中国のメディアによると、取材に応じた人のうち約8割が学校への「預制菜」導入に反対しているとされています。

 ある情報筋は、「預制菜の製造業者は、ワクチンやPCR検査を行う業者らと同じ人たちだ」と明らかにしました。これは、預制菜業界の背後に中国共産党の重要な人物がいる可能性があることを示唆しています。

 また、あるネットユーザーは、「預制菜」そのものは恐ろしいものではないと述べつつも、確かに食品の防腐剤などが含まれていることに触れ、少量であれば許容できると指摘しました。しかし、中国共産党が急に全国的にこれを大々的に推進していることについては、心配せずにいられないと述べました。その理由として、「預制菜」が政府による統一的な配布に適しており、予測可能な食品不足を防ぐための手段であるのか、それとも戦争への備えとしているのか、といった疑問が庶民の間で生じていることを指摘しています。

 米国在住の時事評論家、江峰氏は9月24日に自身のYouTubeチャンネルで、米中の対立が全面的な制裁段階に進展する可能性や、台湾海峡での戦争に備えて戦略的な後方補給保障を強化する必要があるとの仮定を述べました。中国共産党は、軍事用食糧だけでなく、社会全体の食糧供給の安定性を確保するために、食糧を大量に輸入・備蓄する必要があるとしています。そのため、急速に食糧備蓄を整理し、戦時に使用できる「預制菜」を開発することが、準備の一環として非常に重要であると江峰氏が述べました。

中国当局が「預制菜」を大々的に推進

 中国国営メディア「人民網」の研究機関「人民網研究院」は7月11日、「預制菜業界発展レポート」を発表しました。このレポートでは、2022年の中国の「預制菜」市場規模が4196億元(約7兆9724億円、1元=約19円)に達し、2023年に5165億元(約9兆8135億円)、2026年には1兆720億元(約32兆6800億円)に達する見込みとしました。また、2022年の預制菜関連の企業数を省別で見ると、山東省が8654社で最多、次いで広東省(6700社)、河北省(5209社)、河南省(4562社)、湖南省(4141社)、安徽省(4071社)、福建省(3951社)、江蘇省(3374社)、吉林省(3333社)、四川省(3104社)と続いています。

 山東省政府は2022年11月16日、「全省預制菜産業の質の高い発展の推進に関する意見」を発表し、2025年までに山東省の預制菜関連の企業数を1万社超とし、産業チェーン全体の生産額を1兆元超とする目標を設定しました。この目標達成に向け、預制菜に関連する産業チェーンの強化、市場開拓、標準体系の構築、イノベーション能力の向上、支援・保障の強化を掲げ、16項目の具体的な措置を挙げました。

 レポートでは、預制菜業界の発展のトレンドと展望として、政策的な後押しによる質の高い発展へのモデルチェンジ、技術イノベーションによる製品の多様化・差別化などが挙げられました。また、政府に対しては標準体系を構築した上での地域産業レイアウトの計画、企業に対しては食品の安全を保障した上での消費者満足度の向上を提言しています。

核子基因社、食品関連の子会社を設立

 ある情報筋は最近、かつての「PCR検査の業界リーダー」であった張核子氏が、PCR検査会社を解散する一方で、新たに農業会社を登録し、農業および預制菜関連の事業を展開する計画を進めていることを明らかにしました。

 企業情報照会プラットフォーム「天眼査」の情報によると、2023年5月、湖北省武漢市に位置する武漢核子農業科技有限公司(以下、武漢核子農業)が設立され、核子基因社が100%出資しています。武漢核子農業は主に研究開発に従事する企業であり、その事業範囲には、穀物の栽培、農業科学の研究と開発、農産物の生産、販売、加工、輸送、保管などが含まれています。

 北京の経済日刊紙「北京商報」は、シンクタンク「中国数実融合50人フォーラム」の専門家である洪勇氏の発言を引用し、核子基因社が以前にPCR検査の不正行為に巻き込まれたことが、その信用に悪影響を及ぼす可能性があると指摘しました。また、同社の農業および預制菜への事業拡大は、同社グループのコア能力や戦略目標と一致しているのかどうかについても疑問があります。本業と関係のない事業拡大であれば、その戦略はリスクが高すぎると考えられます。

 記事によると、武漢核子農業はすでに「九谷益聖」という商標の文字と図形を申請しました。国際分類はすべて便利食品に関連しており、商標の対象となるサービスには、チンご飯、米、米粉、穀物製品、米を主原料で作られたフリーズドライ食品、米や穀物を主成分とするスナック、調理用生米ペースト、食用芳香剤などが含まれています。

 注目すべきは、チンご飯やフリーズドライ食品などの商品が預制菜に属し、現在、商標が審査待ちの段階にあることです。

 武漢核子農業の一連の動きは、核子基因社が預制菜分野に参入する可能性について人々に憶測を呼び起こしています。

張核子氏、既に12社を解散

 「天眼査」の情報によると、核子基因社は2012年4月に設立され、本社は深セン市にあり、法人代表者は張核子氏で、2022年11月時点で登録資本は3707万元(約77億円)です。核子基因は元々遺伝子検査業務を主力としていました。

 張核子氏は会社を設立して以来、遺伝子検査の事業を急速に拡大し、2022年だけで16のPCR検査会社を登録しました。当時のデータによると、コロナの流行期間中、核子基因社は7億人に対してPCR検査を実施したとされています。

 しかし、その後、同社は何度もPCR検査の不正騒動に巻き込まれました。例えば、2020年から2022年にかけて、済南市の子会社の関連する営業担当者は、まだ検査していないサンプルの検査結果をすべて陰性と虚偽報告していたり、長沙市の子会社が非医療技術者を雇って医療技術に従事させていたり、蘭州市の子会社が陽性感染者を陰性と虚偽報告していたことなどの事例がありました。

 「第一財経」の報道によると、これまで、核子基因社が投資した62社のうち、12社が解散しています。

 核子基因社のこれほど大きな動きは、中国当局の支持が背後になければスムーズにできないことですし、さらに、裏に隠された深い原因がある可能性も考えられます。

(翻訳・藍彧)