多くの人々にとっては想像し難いかもしれないが、中国の首都である北京市が沈下しつつあり、6つの地下鉄路線が変形している。これらの変化はゆっくりと進んでいるものの、近年加速する傾向が見られる。

 『ナショナル ジオグラフィック(中国語版)』誌によれば、北京市が沈下しつつあるという状況は、北方工業大学と武漢大学が2022年に発表した論文で初めて明らかになった。この論文は「InSARデータによる北京の地盤沈下の解明」と題され、近年、北京の「地盤沈下の速度と程度が増加している」と述べた。

 同論文によると、北京の15つの地下鉄路線のうち、6つの路線の平均変形率が5ミリメートル/年を超えているという。特に1号線の八通線では平均変形率が22.5ミリメートル/年に達しており、6号線と7号線の最大変形率はそれぞれ70.4ミリメートル/年と115.1ミリメートル/年で、朝陽区の黑庄戸地下鉄駅は最大変形地域に位置している。

 しかし、地下鉄の変形は氷山の一角に過ぎず、実際にはこの都市は沈下の危機に直面している。

 「InSARとPCAによる北京平原の地盤沈下の時空分析」と題した調査よると、2017年から2020年までの3年間に、北京市昌平区南東部、海淀区北西部、朝陽東部、通州北西部、順義南西部、大興南部などで地盤沈下があったことが明らかになっている。そのうち、海淀西区北部、朝陽区東部、通州区西北部は地盤沈下が最も深刻な地域で、朝陽金箋区は0.34メートルも沈下したという。

 「中国日報」によると、北京・天津など華北地区の地下水が、少なくとも1,200億立方メートルが過剰にくみ上げられており、それは200個の白洋淀(中国の淡水湖、注1)の水量に相当するという。また、ある匿名を求めた専門家によると、実際の状況はもっと深刻で、華北地区の地下水の過剰くみ上げはおそらく2,000億立方メートルに近づいているという。

 この問題の対応策として、2015年に北京市は「南水進京(南方の水を北京に導入)」プロジェクトを開始し、地下水の採取を減らすために南部の地下水を北京に引き込むことにした。しかし、これは北京の地盤沈下現象に対して、比較的軽い程度での緩和にしかならず、清華大学環境学院の劉文君教授は「さらに深い地下水の補充はすでにできなくなっている」と指摘した。

*注1: 中国、河北省中部にある沼沢。海河の支流、大清(だいせい)河の中流に位置する。白陽淀、西淀とも称する。白洋淀、蓮花(れんか)淀など大小92余の沼沢の総称で、最大面積約300平方キロメートル、常時は200平方キロメートル余。

(翻訳・吉原木子)