価格が約940万円(40万元近く)もする中国製の「高級」電気自動車(EV)が、車体を斜めにしたまま高速道路を走る動画が、ネット上で急速に拡散しています。黒い車の前部は明らかに右を向き、車体と進行方向の間には、およそ30度の角度がついています。前輪は車線の中央付近にあるのに、後輪は左側の白線を踏んだまま。その姿は、まるで横歩きするカニのようで、後ろを走る車の運転手も、不安を感じるでしょう。動画を見たネットユーザーからは、「よく命知らずなことができるな」といった声が上がりました。しかし、これから紹介するいくつかの出来事と比べれば、この斜めに走る車は、まだ「幸運」なほうなのかもしれません。

 よく見ると、この車には緑色のナンバープレートがついています。中国で電気自動車などの新エネルギー車に使われるものです。ナンバーの先頭は「鄂A」で、湖北(こほく)省武漢(ぶかん)市の登録を示しています。エンブレムを見ると、東風(とうふう)汽車グループ傘下の嵐図(らんと)ブランドの「泰山(たいざん)」であることが分かります。東風汽車は中国政府が全額出資する国有企業で、嵐図は同社が力を入れる、いわゆる「高級」新エネルギー車ブランドです。嵐図·泰山のメーカー希望小売価格は、約890万円(37万9900元)から約1200万円(50万9900元)です。主な売りの一つが、後輪の向きを左右に変えられる機能で、メーカーは「双方向16度」とうたっています。車体の向きを変えずに斜めに移動できる「カニ走行モード」も備えているとしています。

 ここで気になるのが、この機能との関係です。あるネットユーザーは、次のように推測しています。「後輪の向きを変える機能が故障したんだろう。たぶん高速に乗ったあと、カーブで運転手がハンドルを切ったときに作動して、ハンドルを戻すときにシステムが故障した。後輪が曲がったまま動かなくなって、あの状態で走り続けるしかなくなったんじゃないか」。自動車について発信するブロガーからも、「これが『カニ走行モードの正しい使い方』なのか?」と皮肉る声が出ています。

 メーカーの説明によると、カニ走行モードは本来、地下駐車場での駐車や、狭い道で車の位置を調整するときなど、低速で使うための機能です。システムの故障であれ、高速走行中にこの機能が意図せず作動したのであれ、こんな姿勢で高速道路を走る車には、見ているだけで冷や汗が出ます。

 ただ、この嵐図の車が、ひやりとするだけで済んだのだとすれば、次に取り上げる問題では、すでに何人もの命が失われています。

 2025年3月29日深夜、安徽省の徳上(とくじょう)高速道路で、小米(シャオミ)のSU7が運転支援機能を使い、時速約116キロで走行していました。システムが前方の工事区間にある障害物を検知して警告を出し、運転手がハンドル操作を引き継ぎました。しかし、そのわずか数秒後、車は時速約97キロでコンクリート製の防護壁に衝突し、直後に出火しました。乗っていた女子大学生3人全員が亡くなりました。

 事故後、ネット上では、電源が切れてドアのロックが解除できず、開かなかったという話が一時広まりました。これに対し、小米は、4つのドアすべての内側に、電気を使わず手動で開けられる緊急用ハンドルを備えていると説明しました。しかし、「運転支援機能は本当に頼れるのか」「事故が起きたとき、車内から脱出できるのか」。この二つの疑問は、それ以来、多くの車の所有者の心に重くのしかかっています。

 その半年後、悲劇は再び起きました。

 2025年10月13日、成都市の幹線道路で、またも小米SU7が衝突事故を起こし、炎上しました。現場の動画には、通行人が何人も救助に駆けつけ、必死にドアを引っ張る姿が映っています。しかし、どうしても開きません。その後公表された司法鑑定の結果によると、車は時速約167キロで前の車に衝突し、駆動用バッテリーが損傷してショートしました。衝突からおよそ9秒後には、ドアのロック解除などに使う低電圧の電源が失われ、外側のドアハンドルで電子ロックを解除できなくなりました。しかも、この車には、外から電気を使わずにドアを開けられる緊急用の装置が備わっていませんでした。31歳の運転手は車内に閉じ込められ、炎の中で命を落としました。

 ここまで聞くと、疑問に思うかもしれません。自動車メーカーが「先進的なデザイン」「空気抵抗の低減」を大々的に売りにしてきた、車体に収納されるドアハンドルが、なぜ車を、人を閉じ込める鉄の檻に変えてしまうのでしょうか。

 その答えは、二つの数字に隠れています。中国の自動車安全評価制度「中国保険汽車安全指数」の試験データによると、ドアハンドルが完全に車体に収納される車では、衝突後に電気を使わずドアを開けられた割合は、わずか19%でした。一方、従来型のドアハンドルでは98%に達しています。

 今年8月21日、中国の国家市場監督管理総局は、ようやく700万台を超える車のリコールを発表しました。車内の緊急用手動ハンドルが内装と似た色で、見つけにくいうえに操作もしにくく、衝突後に乗員が閉じ込められるおそれがあるためです。中国の自動車史上、最大規模のリコールとされています。対象にはテスラのほか、小米の約39万台、零跑(リープモーター)の約37万1000台、小鵬(シャオペン)の約26万5000台が含まれています。さらに、極氪(ジーカー)、奇瑞(チェリー)、東風汽車、北汽藍谷(ほっきらんこ)、一汽(いっき)なども、合わせて約28万台が対象です。中国の工業情報化省も、2027年からすべての新車に、電気を使わず手動でドアを開けられるハンドルの装備を義務づけています。

 では、衝突さえしなければ安心なのでしょうか。次の事例では、車は何にもぶつかっていません。

 2025年10月23日夜、上海市徐匯(じょかい)区で、理想(りそう)汽車のMEGAが走行中に突然出火しました。目撃者が撮影した動画では、車の下から立て続けに破裂音が響き、わずか10秒ほどで車全体が激しい炎に包まれました。最後には骨組みだけを残して焼け落ちましたが、幸い、乗っていた人たちは間一髪で脱出できました。

 1週間後、理想汽車は、2024年2月から12月に製造されたMEGA、1万1411台のリコールを発表しました。調査の結果、冷却液に備わる、金属の腐食を防ぐ性能が不十分だったことが分かりました。特定の条件下で、駆動用バッテリーと前側のモーターの制御装置を冷やすアルミ板が腐食し、冷却液が漏れるおそれがあったのです。最悪の場合、バッテリーの温度上昇が止まらなくなる「熱暴走」を引き起こす可能性がありました。価格が約1175万円(50万元)を超える最上位モデルが、冷却液という基本的な部分でつまずいたのです。理想汽車の株価も、これを受けて急落しました。

 これらの出来事を並べると、共通点が見えてきます。中国の新エネルギー車産業は、政府の補助金や政策支援を受けて急速に拡大してきました。各メーカーは市場を奪い合うため、「後輪の向きを変える機能」「カニ走行モード」「収納式ドアハンドル」「高度な運転支援」といった目新しい機能を、競うように売りにしています。しかし、発売前に十分な検証を行ったのか。一部が故障しても安全を確保できるよう、予備の仕組みまで設計されているのか。こうした点は、十分に問いただされないままになりがちです。当局が「新技術で一気に他国を追い抜く」「他国をはるかにリードしている」と盛んに宣伝する中で、こうした危険性は軽く扱われがちです。多くの場合、事故が起きて世論の怒りが高まってから、ようやくメーカーがリコールや改善に追い込まれています。

 高速道路を斜めに走っていた嵐図·泰山は、システムの故障だったのでしょうか。それとも、機能が意図せず作動したのでしょうか。現時点では、まだ答えは出ていません。ただ、多くの中国の消費者が求めているのは、発表会で次々と披露される「驚きの先端技術」よりも、もっと単純なことなのかもしれません。高速道路でまっすぐ前を向いて走り、事故が起きたときにはドアを開けられる車です。

(翻訳・藍彧)