中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の創業者、任正非氏が9月22日、広東省深圳市で公の場に姿を見せた。任氏は10日余り公の場に現れておらず、本人と家族が国外へ逃れたとの噂が広がっていた。今回の登場で、少なくとも本人の国外逃亡説は事実上打ち消された形だ。
中国自動車大手の東風汽車は同日、同社総経理(社長に相当)兼党委員会副書記の馮長軍氏が深圳を訪れ、任氏らファーウェイ経営陣と会談したと発表した。双方は協力の深化や技術開発のほか、共同開発中の複数の車種について協議した。同社が公開した写真には、会談に臨む任氏の姿が写っている。
任氏は東風側に対し「自動車づくりの根幹は安全と品質にある」と述べた。そのうえで、ファーウェイの技術力を生かし、東風汽車が市場で通用する製品を開発できるよう支援する考えを示した。
任氏の動静途絶え、噂が拡散
9月11日ごろから、中国国内外のSNS上で、ファーウェイ社内のやり取りとされるスクリーンショットが出回り始めた。そこでは、同社の上級幹部らが任氏と連絡が取れなくなっているとされていた。別の投稿では、任氏の家族10人以上とも同時に連絡が途絶えたとされ、一家が海路で出国したのではないかとの臆測も広がった。臆測は、新たな出国規制が施行される前に一家が中国を離れたとする具体的な筋書きを伴い、日を追うごとに拡散した。
また、武装警察がファーウェイ本社を包囲する様子を撮影したとされる動画も出回った。ただしその後、一部のユーザーから、数年前のものとみられるとの指摘が出た。
任氏の次女で女優の姚安娜(アナベル・ヤオ)氏は9月14日、北京で開かれたイベントに出席した。その数日後には、中国の短文投稿サイト「微博(ウェイボー)」上に出回った動画にも姿を見せた。動画で姚氏は「我是不信谣不传谣的人(私はデマを信じず、広めない人間です)」と書かれたシャツを着ていた。中国語で「デマ」を意味する「谣」は、姚氏の姓「姚」と同じ発音である。ネット上では、一連の臆測にユーモアを交えて応じたものとの受け止めが広がった。
ただ、任氏本人は東風汽車との会談まで公の場に姿を見せなかった。時事評論家の蔡慎坤氏は任氏の登場後、自身のX(旧ツイッター)に次のように投稿した。「ネット上では、任正非氏とその家族全員が海外へ逃亡したという話が盛んに出回っていた。どれも恐ろしく扇情的な話ばかりだった。私は自分の動画で、その可能性はほぼゼロだと述べていた」
東風汽車の発表によれば、任氏は会談で噂に触れていない。今回の登場は、正式な否定というより間接的な反論と言える。
ファーウェイ、米国で重大な刑事裁判に直面
一連の臆測が広がったのは、ニューヨーク州東部地区連邦地裁(ブルックリン)で9月9日、ファーウェイに対する刑事裁判の公判が始まった直後のことだった。米検察当局の主張は、ファーウェイが組織的な不正行為(ラケッティア行為)に関与し、米国企業の営業秘密を盗んだというものだ。さらに、イランでの事業をめぐって金融機関に虚偽または誤解を招く説明をしたとも主張している。ファーウェイは不正行為を否定している。同社は、検察側が正当な商慣行をゆがめ、個別の紛争を広範な犯罪計画の証拠であるかのように描いていると反論している。
ファーウェイは2018年に起訴され、20年の追起訴を経て、起訴内容は銀行詐欺、制裁違反、営業秘密の窃取、マネーロンダリング、司法妨害などに及ぶ。ロイター通信によると、公判は約3カ月に及ぶ可能性がある。
任氏の長女で同社副会長兼最高財務責任者(CFO)の孟晩舟氏は、今回の裁判の被告には含まれていない。ただ、孟氏は2021年に米司法省と訴追延期合意(DPA)を結んだ際、ファーウェイのイラン関連事業をめぐって金融機関に誤解を招く説明をしたことを認めている。アン・ドネリー連邦地裁判事は今年6月、この内容をファーウェイに不利な証拠として採用できるとの判断を示した。
9月22日の任氏の登場により、任氏が少なくとも同日時点で中国国内で公に活動していることが確認され、一連の臆測の少なくとも一部は否定された形となった。一方でファーウェイは、創業以来最も重大な法的試練の一つに直面している。今回の騒動によって、同社と経営陣は中国国内外で改めて強い注目を集めている。
(翻訳・竹内優子)
