一つの薬液のたらいから、東アジアを揺るがす食品安全問題が広がりました。中国産白菜からホルムアルデヒドが検出され、日本、韓国、台湾も相次いで警戒に乗り出しました。
環境問題を扱うブロガーが自ら現地に張り込んで撮影した動画が、中国の白菜業界で長年続いてきた「暗黙の慣行」を明らかにしました。それは、白菜の根元をホルムアルデヒド溶液に浸し、鮮度を保つというものです。この地方発の食品安全スキャンダルは、わずか数日で東アジア全体の警戒へと発展しました。韓国と日本は相次いで水際での検査に乗り出し、台湾も問題のある商品が「迂回」して流入するのを防ぐため、国際的な通報体制を始動させました。
そして、すべての始まりは、1台のトラックのそばに置かれた二つのプラスチック製たらいでした。
事件が起きたのは、河北省張家口市(ちょうかこうし)康保県(こうほけん)(とんこんちん)です。ここは現在、中国国内最大級の白菜産地の一つです。ブロガーは動画の中で、最初に検査へ出した白菜のサンプルから7月30日にホルムアルデヒドが検出されたため、自ら産地へ向かい、真相を調べることにしたと説明しています。
現場に到着すると、ブロガーは長距離輸送を行う大型トラックに狙いを定め、調査を始めました。
ところが、最初の1台から早くも問題が見つかりました。ドローンを飛ばすと、すぐにブロガーの推測を裏付ける光景が確認されました。しかも、想像以上に堂々と行われていました。さらに直接的な証拠を得るため、ブロガーは危険を承知で近づき、自分も白菜を運ぶ荷主を装って運転手に話しかけました。
ホルムアルデヒドは、世界保健機関傘下の国際がん研究機関によってグループ1の発がん性物質に分類されています。長期間、または高濃度でさらされると、呼吸器、消化器、循環器系や神経系に悪影響を及ぼす可能性があります。残留量がごくわずかでも、口から摂取すれば口腔や食道、胃の粘膜を刺激し、吐き気、嘔吐、下痢などを引き起こす可能性があります。一度に大量に摂取した場合は、腎臓に障害が生じ、さらに深刻な場合には昏睡や死亡に至る可能性もあります。
では、なぜ業者は発がん性のリスクを冒してまで、このようなことをするのでしょうか。答えは非常に単純です。「割に合う」からです。少なくとも、業者自身にとってはそうなのです。
白菜は「百菜の王」とも呼ばれ、需要も流通量も多い一方、根元が非常に腐りやすく、長距離輸送による損失が増えれば、その分だけ利益が圧迫されます。ホルムアルデヒドには細菌の繁殖を抑え、腐敗を防ぐ作用があり、白菜を「白くきれい」に見せ、見栄えも良くできます。そのため一部の業者にとって、「利益を大幅に増やせる裏技」となっていたのです。つまり、これは技術上のミスではなく、消費者の健康を犠牲にしてでも自分たちの輸送コストを下げようとする、意図的な損得勘定だったということです。
この事件は本来、中国国内だけで収まっていた可能性もありました。では、なぜわずか数日で東アジア全体を揺るがす事態になったのでしょうか。
その答えは生産量にあります。中国では毎年3000万トンを超える白菜が生産され、世界全体の生産量のほぼ半分を占めています。そのうち大量の白菜が周辺国へ輸出されています。地方で起きた一つの食品安全問題が、短期間で東アジア全体のサプライチェーンに影響を及ぼしたのは、このためです。
韓国の外食産業は中国から輸入される白菜への依存度が非常に高く、輸入されるキムチ原料の実に99.9%が中国産です。秋のキムチ漬けシーズンが迫るなか、韓国食品医薬品安全処は緊急に3段階の通関検査を開始し、問題の白菜がすでに韓国国内の市場へ流入していないかについても追跡調査を進めています。
日本では農林水産省と厚生労働省が省庁をまたいだ確認作業を始めました。8月25日時点で、監視システム上、問題となった白菜が日本市場に入ったことを示す証拠は確認されていません。日本のサプライチェーンは問題が起きた地域への依存度が高くないため、全面的な水際での輸入禁止措置は取らず、高い警戒を維持しながら状況を注視しています。
事件の発覚後、中国のネット上には監督体制を疑問視する書き込みが大量に寄せられました。そこから見えてくるのは、長年積み重なってきた食品安全の監督体制に対する不信感です。いったん生まれたこの不信感は、白菜に残ったホルムアルデヒドよりも、取り除くのが難しいのかもしれません。検査機器なら化学物質を検出できますが、人々の心に生まれた不信まで「検査」することはできないからです。
(翻訳・藍彧)
