中国経済の支柱である不動産が破たんして以来、中国地方政府の土地財政の時代も終わりを告げました。低迷する経済と制御不能な不動産価格とは対照的に、国民の生活に必須な水道、電気、ガスの値上げが進んでいます。水道光熱費の値上げ後、5月2日に中国高速鉄道の運賃も値上げを発表しました。

 今回の値上げは主に武漢-広州間の旅客専用線、上海-広州間の旅客専用線、上海-昆明間の旅客専用線、杭州-寧波間の旅客専用線の4つの高速鉄道路線です。一等席(セミリクライニングシート)や二等席(最も手頃価格)のチケットは約20%値上げされ、ビジネス席のチケットは最大で40%近く値上げされています。片道全行程のチケットは2000元(約43000円)に迫り、航空券より高く、所要時間も飛行機より長いです。さらに、値上げされた4つの路線は、中国経済で最も活発な長江デルタ経済区と主要な労働力供給地である中国中部地域をカバーしています。3種類の座席は建設業と製造業の一般労働者、および中高級ホワイトカラー層に対応しています。

 中国高速鉄道は過去十数年間、中国モデル経済発展の縮図といえます。中国高速鉄道が過去の低コストと規模の優位性の代表から、今日の巨額負債危機の代表へと変わったことは、多くの重要な情報を示しています。

神話から呪いへと変わるインフラマニア
 過去十数年間、高速鉄道は中国の最も輝かしい国の名刺とされてきました。全国の高速鉄道の総延長は9300キロメートルから4.5万キロメートルに急増し、各市に高速鉄道を通す省が増え続け、さらには各県に高速鉄道を通すことを提案する地域もあります。長い間、中国自称の「インフラマニア」は、すべて高速鉄道の急速な発展のイメージに関連していました。しかし、中国の高速鉄道建設は主に負債による資金調達に依存しているため、急速に伸びる走行距離とともに、巨額の負債も急速に増加しています。2023年、中国国鉄路集団の営業収益は1.2454兆元(約27兆円)、純利益は33億元(約710億円)を達成したが、これはすでに最高業績の年となっています。しかし、2005年から2023年まで、国鉄の負債総額は0.48兆元(約10兆円)から6.13兆元(約132兆円)に急増し、毎年の利払い費は2000億元(約4.3兆円)を超えます。33億元の利益では利払いさえできません。

 なぜこんなに多額の負債ができたのでしょうか?

 新華社通信が発行した『了望(りょうぼう)』週刊は2019年、高速鉄道の急速発展リスクについて記事を掲載しました。

 まず、地方負債リスクが極めて高まりました。中国の鉄道建設資金の大部分は中央と地方政府が調達しています。各地の政府が鉄道建設権を競う手段の1つが地方政府の出資比率を上げることでした。一部の地方では出資比率が80%に達することもありました。地方政府の資金は主に銀行からの融資であり、一部の地域では高速鉄道建設における銀行融資が75%に上るところもあります。

 次に、生産能力の過剰を引き起こしました。高速鉄道に関連する産業チェーン全体が様々な程度で負債を背負っており、負債を軽減するために企業間で価格競争が激化し、コストを下げるために規模を拡大するしかなく、最終的に各段階で生産能力が過剰になりました。

 三つ目に、異業種経営が負債を押し上げました。一部の高速鉄道企業は負債を軽減するために異業種経営を行いました。これらの企業は自身の業界優位性を利用して、高速鉄道プロジェクトを通じて大量の土地を購入し、不動産開発を行い、負債を増加させました。

 しかし、これらのリスクより深刻なのは、高速鉄道企業が現在元利返済のピークにあることに加え、高速鉄道建設も建設ピークにあることです。つまり、旧債を返済しないうちに新しい負債を追加しているため、建設を止めることができません。

 新型コロナウイルスの流行前、多くの人が高速鉄道の負債リスクに気付き、一部の高速鉄道プロジェクトは中止されました。しかし、流行後の2年間で経済を回復させ、内需を刺激するために、中止された高速鉄道の建設が再開されました。2023年には全国の鉄道固定資産投資が7645億元(約16.52兆円)に達し、前年比で7.5%増加しました。この増加した投資のうち、少なくとも7割が負債です。

 さらに、より深刻な問題に直面しています。それは、高速鉄道の多くの製品が耐用年数を迎え、「大規模メンテナンス」の時期が来ています。中国の高速鉄道は低コストで設計・建設されているため、老朽化が早いです。2022年から、中国の高速鉄道は大規模なメンテナンス期に入りました。そして、それは工場に戻し、高度なメンテナンスが必要です。現在は、負債元利返済のピーク期、高速鉄道建設の加速期、大規模なメンテナンス期の3つの周期が重なっています。運賃値上げしなければ、関連各企業は資金調達できません。

高速鉄道で不動産を牽引する経済発展モデルが既に破たん
 高速鉄道を建設するもともとの目的は切符を売って利益を上げることではなく、高速鉄道沿線の経済活動を活発化させ、沿線地域の不動産価値の上昇を促すことなどを主目的とした中国モデルの都市化戦略だったという意見もあるでしょう。

 しかし、中国のシンクタンクである安邦マクロ経済研究センター2018年の研究結果によると、中国の高速鉄道の駅は深刻な「不動産化」が進んでおり、高速鉄道交通システム全体の建設は「土地経済」の理念と地方政府の業績観の影響を受けています。「高速鉄道+不動産」モデルの潜在的リスクが徐々に露呈しています。

 中国は2013年から2017年にかけて、全国範囲で鉄道の営業走行距離を2万9400キロメートル増やし、そのうち高速鉄道は1万5700キロメートルであり、これは史上最も集中し、高度な投資期間でした。

 リスクの1つは、高速鉄道駅の建設と都市化プロセスを結びつけた「高速鉄道+都市」モデルです。2017年には、中国で建設された高速鉄道駅の数は516に達し、1つの都市に複数の高速鉄道駅があることも珍しくありません。当時、人々は「高速鉄道があるところには人気があり、人気があるところには住宅やビジネス需要がある」という考えを持っていました。

 しかし、多くの地方政府は、高速鉄道駅の最も基本的な機能は旅客を分散させることであるという事実を故意に無視してきました。つまり、多くの高速鉄道駅は交通ハブであり、乗客は到着するとすぐに地下鉄やバスに乗り換え、駅周辺にはほとんど留まりません。また、地方都市の計画では、高速鉄道の乗客流の集散という概念が明らかに薄れ、高速鉄道駅が地方の地価や不動産価格を引き上げる役割は誇張され、強調されてきました。その結果、多くのショッピングモール、店舗、ホテル、住宅が遊休状態となり、多くの都市が高速鉄道駅の建設によって重い負債を背負うことになりました。結局のところ、高速鉄道の建設は不動産のバブル化を加速させました。

(翻訳・藍彧)