礼楽制度により教育された君子たちは、気高い素質と東洋特有の品格を備えました(絵:志清/看中国)

 現代社会において、我々はウォークマンやスマートフォンを使って、いつでもどこでも音楽を楽しむことができます。実は、古代の人々も彼らなりに「ウォークマン」を使っていたそうです。

 『礼記』の記載によると、君子(くんし)は佩玉(はいぎょく)を身に着けなければいけませんでした。佩玉は様々な種類があり、その美しさはアクセサリーとして不可欠になっていました。一説には、佩玉は霊媒の効果もあると言われたため、帝王が天を祭るための礼器として使われました。実は、古代の君子は日常生活で、佩玉を使って音楽を聴いてきたとも言われています。

 西周が建国され、周の帝王・周公旦(しゅうこう・たん)は礼楽制度を制定してから、人々は、厳しい政治や法律より、道徳教育と礼楽制度こそ人への教育に役立つことを気づき始めました。そのため、様々な礼儀典範が細かく制定されました。その礼儀典範には、日常の暮らしと言動、さらには立ち振る舞いの節度まで、くまなく規定されました。礼楽制度により教育された君子たちは、気高い素質と東洋特有の品格を備えました。

 礼儀典範の中には、佩玉について詳しく解説しています。『礼記・玉藻篇』の記載によると、君子の身に着けている佩玉は、左側に着けられると五音(ごいん)の中の「宮」と「羽」の音をし、右側に着けられると「徴」と「角」の音をするそうです。早足で歩く時は『采斉』という曲のリズムに合わせ、ゆっくりと歩く時は『肆夏』という曲のリズムに合わせるべきです。前進する時も、後退する時も、手の動きに伴い、佩玉が透き通った音で鳴ります。そのため、君子は、馬車に乗る時に、馬の背に掛けている鈴の音を聴き、歩く時に、身に着けている佩玉の音を聴くため、五音の正声(せいせい)に浸かり、邪念が離れ、心を正しく保つことができると言われています。

中国の戦国時代の螭虎紋佩(イメージ:国立故宮博物院・台北)

 この記載から、古代の人々は自らの心をどのように規制していることがわかります。そして、音楽への理解の深さもわかります。日常生活に、負の感情や情報に邪魔されがちですが、正声と雅楽を聴くことにより、邪念を取り除き、ポジティブに心を保つことができるようになります。そのような効果をもつ佩玉はまさに、高貴で美しく、実用的な「ウォークマン」ですね。

 古代の有徳な君子たちは歩く時、大きな袖を風に振るわせ、身に着ける佩玉をチリチリと鳴らせます。その歩き姿が、上品な風格を表します。そして、佩玉の鳴らすリズムの正しさ、立ち振る舞いの適度さは、内心の徳行の反映となります。もしかしたら、本当の有徳な君子から見ると、きれいな音は鳴らすのではなく、自らの徳を正しく守れば、自然に出せる音かもしれません。

(翻訳・常夏)