最新の学術研究の結果によると、中国は徐々に沈下しており、この状況が続けば、今後100年で中国国土の約26%が海に沈み、その地域に住む中国人の約3分の1が影響を受けるでしょう。

 中国の財新網4月23日の報道によると、北京大学の陶勝利教授が率いる研究グループは、国際学術誌『サイエンス』に最近発表した論文で、「地下水の過度な使用と高層ビルの建設が原因で、中国の主要都市が年間10ミリメートル以上の速度で沈下している」と指摘しています。この研究グループは、北京大学や華南師範大学を含む20以上の科学研究機関によって構成されています。

 この研究グループは、欧州宇宙機関(ESA)が運用する地球観測衛星「Sentinel-1(センチネル1)」の干渉合成開口レーダー(InSAR)の観測データを利用し、2015年から2022年までの中国の82の主要都市における衛星データと、地上で受信されたGPS(全地球測位システム)の信号を分析しました。Sentinel-1の衛星観測データは誰でも無料で公開されており、公共機関や研究機関、商業データ分析で広く利用されています。干渉合成開口レーダーは、レーダーパルスを使用して、衛星と地表との距離をミリメートル単位で非常に正確に測定する技術です。

 分析の結果、中国の多くの都市が非常に速い速度で沈下していることが明らかになりました。分析対象となった都市のうち、45%の面積が年間3ミリの速度で沈下しており、さらに約16%の面積は年間10ミリを超える速度で沈下しています。一部の都市では、年間22ミリの深刻な沈下が観測されています。

 この研究によると、現在の傾向が続けば、100年後には中国の約26%の国土が海平面以下に沈むことになるが、これらの地域に住んでいる中国人口の約29%の住民が影響を受けます。そのため、「都市の沈没を防ぐための保護措置を講じなければ、問題は非常に深刻になる」と警告しています。中国の大都市の中で、天津、上海、広州の3大都市及びその周辺都市群が最も大きな影響を受けることが予想されます。

 地盤沈下は、建築物の基礎沈下、家屋のひび割れ、地下パイプラインの破損、井戸管の浮き上がり、洪水や高潮の災害の悪化など、一連の問題を引き起こすゆっくりと進行する地質災害です。これにより、国民経済に甚大な損失をもたらします。

 中国の元国土資源部と水利部が2012年に発行した「全国地盤沈下防止計画(2011-2020)」によると、2009年の調査およびモニタリングの結果、全国で地盤沈下が200ミリを超えた地域の累積面積は7万9000平方キロメートルに達し、地盤沈下が発生した都市は50を超えています。

 イースト・アングリア大学の気候科学者であるロバート・ニコルズ氏は、「これは全国的な問題だ」と述べました。ニコルズ博士によると、彼が知る限り、人工衛星からの最新レーダーデータを使って複数の都市部の地盤沈下を同時に測定したのは、この研究が初めてだといいます。

 当該論文によると、中国本土の急速な地盤沈下の主な原因は地下水の過度な使用です。都市地下の帯水層から水が抽出されると、地中に空洞が生じ、土壌や岩石が圧縮されたり崩れたりします。さらに、無秩序に拡張される高層建築も地盤沈下を引き起こす一因とされています。これらの都市での地盤沈下は不均一であり、隣接する土地が異なる速度で沈下すると、その土地上に建てられた建築物が損傷を受ける可能性があります。

北京市が全体的に沈下中

 北京では、地下水の大量利用により地盤沈下が深刻化しています。最近公表された調査結果によると、最大で年間10センチ以上も沈下している地域があると報告されています。専門家たちは、この状況が続けば鉄道やビルなどの構造物に崩壊の危険性があると警告しています。

 2003年から2010年までの衛星画像とGPSデータによると、北京の平均沈下率は年2.94センチで、東部の朝陽区で、最大となる年約10センチの沈下を観測しました。調査対象期間中の沈下は76センチにも上ります。朝陽区には、急ピッチで開発が進むビジネス街があり、高層ビルやホテルが建ち並んでいます。

 北京市の地盤沈下により、6つの地下鉄路線が変形しています。これらの変化はゆっくりと進んでいるものの、近年その速度が加速しています。

 『ナショナル ジオグラフィック(中国語版)』誌によると、北京市の沈下現象は、北方工業大学と武漢大学が2022年に発表した論文で初めて明らかにされました。この論文は「InSARデータによる北京の地盤沈下の解明」と題されており、近年北京の地盤沈下の速度と割合が増加していると述べました。

 同論文によると、北京の15の地下鉄路線のうち、6つの路線で平均変形率が年間5ミリを超えているとのことです。特に1号線の八通線では平均変形率が年間22.5ミリに達しており、6号線と7号線の最大変形率はそれぞれ年間70.4ミリと115.1ミリに上ります。朝陽区にある黑庄戸地下鉄駅は、最も大きな変形が確認されています。

 しかし、地下鉄の変形は問題の一部に過ぎず、実際には北京では1935年から地盤沈下が進行しているが、沈下率は驚くべきスピードで加速しています。

 この問題の対応策として、北京市は2015年に中国南部地域の水を送ることで北部地域の水不足を解消するプロジェクト「南水北調」を開始しました。しかし、この措置は北京の地盤沈下現象を比較的軽減する程度に留まり、根本的な解決には至っていません。清華大学環境学院の劉文君教授は、「すでにより深い地下水の補充が不可能になっている」と指摘しました。

天津の地盤沈下

 天津市でも地盤沈下の現象が発生しています。2023年5月31日、天津市津南区の一部地区で突然広範囲にわたる地盤沈下が起こり、道路に亀裂が生じ、建物が傾くという事態が発生し、住民が緊急に避難しました。その後、6月3日21時までに合計3899人の地元住民が避難し、再定住しました。専門家は、このような現象は国内外でも珍しいと評し、これを突発的な地質災害と称しました。

重慶市の地盤沈下

 2023年6月5日の朝、重慶市万州区にある錦繍江南団地の路面が陥没しました。この団地の6号棟と7号棟の間の主要道路が影響を受け、約20メートルにわたって陥没し、深さは2から3メートルに及びました。陥没した路面近くにある建物の所有者は、物件の管理会社によって避難させられていました。

 アメリカの放送局「ボイス・オブ・アメリカ」4月19日の報道によると、地盤沈下はすでに中国に年間75億元人民元(約1610億円)を超える損失をもたらしています。今後100年間で、沿岸地域の約4分の1が実際に海平面以下になる可能性があるとされ、数億人が水没のリスクに直面することが予測されています。

 イギリスのイースト・アングリア大学のニコルズ氏は、影響を受けやすい都市は、日本の東京から教訓を得ることができると述べました。東京は20世紀70年代に地下水の汲み上げが禁止されてから地盤沈下の速度が緩やかになり、それ以前には東京は約5メートル沈下していました。

(翻訳・藍彧)