米中央情報局のウィリアム・バーンズ長官は1月30日、米政治誌『フォーリン・アフェアーズ』に「スパイ工作と国家工作(Spycraft and Statecraft)」という題名の文章を寄稿しました。文章では「習近平氏は中国が置かれている国際環境について誤った判断をした」という驚くべき点を指摘しました。
 文章によれば、習近平氏とプーチンの上限のない協力関係から、台湾海峡に対する忌憚のない脅かしまで、すべては習近平氏の誤った判断によるものです。「習近平氏ほど米国のウクライナ支援を注意深く観察している人はいない」と指摘し、「習氏にとって、米国は衰退している大国だが、ウクライナ問題で見せてくれた米国の指導力は驚きだった」と述べました。また、中国の近辺に位置するインド太平洋地域のパートナー諸国と米国のパートナーシップの急速な強化も習近平氏を驚かしていると指摘しました。バーンズ長官は「習氏がさらに驚いているのは、米国の持続的なウクライナ支援が台湾を犠牲にしないばかりでなく、その反面、米国は台湾支援を決意しているという姿勢を示している。これはある程度、習氏に台湾への野心の鉾を収めさせた」と綴りました。

 時事評論アカウント「LT視界」は自身のユーチューブチャンネルで、習近平氏の誤った判断を詳しく分析しました。
 「LT視界」は、習近平氏は主に「ウクライナ問題」「台湾問題」「インド太平洋情勢」の三つの問題で誤認をしたと分析しています。
 誤った判断の根本はどこかと言いますと、「LT視界」によれば、習近平氏が近年、自分で獲得した情報で出した「米国はすでに衰退しており、西側諸国が降下して中国が上昇するという『東昇西降』の局面ができたので、中国共産党(以下、中共)政権はもはや時を待つ必要がなく、米国に代わって世界の覇権を握ろう」という判断が全ての誤認の根本だと考えられます。

 誤った判断はいつからだったのでしょうか。「LT視界」は三つのポイントを指摘しました。
 一つ目は2021年1月11日。中共中央党校主催の省部級幹部会議で、習近平氏は長いスピーチをしました。スピーチのテーマはあの有名な「時(時期)と勢(情勢)は揃って我々の味方だ」という考えでした。習近平氏はいきなりそのように考え、そのように全国民に宣告していたのです。
 二つ目は2021年2月20日。中共党史学習教育会議で、習近平氏は「百年未曽有の大変局」が加速して進行していると話しました。この「百年未曽有の大変局」とは「乱れている世界で実力を積み重ねれば、中国は世界の覇権を握れるという変化」、習近平氏が2017年に初めて言い出した論点です。
 三つめは2021年3月。「両会(全人代と政協)」期間中、習近平氏は政協に参加し「中国は世界競争の土俵を平らにできた」と話しました。この「世界競争の土俵を平らにする」というのは、「国際関係において、中共政権は米国の存在を気にしなくてもよくなった」の意味でした。
 2021年初の三か月の中で、習近平氏は「時期と情勢は揃って我々の味方であり、『百年未曽有の大変局』が加速して進行しているので、中共は世界競争の土俵を平らにできるようになった」と考えたそうです。この三つの観点からは、世界情勢の変化が予想以上にいい方向に向かっていると習近平氏が考えているように見えます。

 三つの考えを出した2021年第一四半期。この四半期は一体何が起きて、習近平氏をここまで思い上がらせたのでしょうか。ここでは、2021年第一四半期における中国と世界諸国の状態を振り返りましょう。
 中国メディアの報道によれば、2021年第一四半期、中国の新型コロナウイルス(中共ウイルス、SARS-CoV-2)の感染状況が制御可能の状態になり、中国全土が平常になった一方、中国以外の世界中では感染拡大に苦しんでいるとのことでした。このような中国メディアの宣伝によって、中国の一般市民は「中国だけが良い国だ。世界中が終わっている。西側諸国は感染拡大を防止できる有効な手段が見つからない」と考えるようになりました。中共政権の高層は、西側諸国の政治システムでは、中共政権のようにロックダウンをすることが不可能だと考えました。新型コロナウイルスは西側諸国を徹底的に潰し、全世界を潰すだろうと、習近平氏が判断しました。このような状況で、習近平氏は「中国は米国に代わって世界の覇権を握る」と早急に宣告しました。
 2021年2月20日、「百年未曽有の大変局」について、習近平氏は次のように話しました。
 「今日、世界中では百年未曽有の大変局が加速している。国際環境が極めて複雑で、世界の経済が低迷期に陥り、世界の産業チェーンとサプライチェーンは再編成に直面しており、不確実性と不安定性は著しく高まっている。新型コロナウイルスの影響は広範囲に及び、反グローバリズム、一国主義、保護主義が急増しており、科学技術革新が国際戦略競争の主戦場となり、科学技術の高みをめぐるかつて例のない競争が繰り広げられている。我々は強い危機感を持ち続け、思想と仕事における万全の準備をしなければならない」
 2021年の習近平氏がいきなりこんなにも大きな自信を持つようになった理由は、新型コロナウイルスの感染が世界各国に大きなダメージを与え、短時間では正常な状態に戻れないと考えたからです。この判断によって、習近平氏はもはや待つことができず、早急に米国に代わって、早急に世界の覇権を握ることが大事だと思っていました。
 したがって、2021年に入ると、習近平氏は非常に過激になり、台湾に対する大胆な武力威嚇を始めました。世界中の新型コロナウイルスの感染が収まらなければ、習近平氏は本当に危険を冒し、武力を行使するつもりでしょう。ですので、バーンズ長官は、習近平氏が米国に対して戦略的に大きな誤った判断をしたと述べました。
 この誤った判断の引火点は、新型コロナウイルスの流行です。これによって、習近平氏は全世界の情勢に対して楽観的すぎる判断を行ったので、ウクライナ侵攻をするロシアを味方にしたり、台湾への武力威嚇をしたり、インドとの軍事的対決をしたりするなど、向こう見ずな行動を多くしました。

 では、習近平氏が夢見たあの「大変局」とはいったい何でしょうか。
 「LT視界」は、習近平氏が夢見た「大変局」は二つの意味を持つと考えています。一つ目は習氏自身の「皇帝になる夢」です。憲法改正によってこの夢がかないました。二つ目はいわゆる「中国の復興の夢」です。しかし習氏の復興の夢は一般市民と違い、「中共政権帝国」の復興の夢だったのです。
 そして今となっては、新型コロナウイルスの流行に乗じて中共政権が米国に代わって世界の覇権を握るという習近平氏の夢が完全に潰え去りました。習近平氏の誤認と誤判による中共政権の数々の誤った行動によって、中国社会にさまざまな危機をもたらしました。中国の一般市民でもその目で、その心で感じられるほど、中国の経済が極めて深刻な危機に陥りました。

 好むと好まざるとにかかわらず、習近平氏は自分の過ちに直面し、その代償を払わなければなりません。

(翻訳・常夏)