山東省臨沂(りんぎ)大学文学院の教師、邢斌(けいひん)さんはこのほど、昨年末のデリバリー配達の体験談をネット上で投稿しました。彼はその文章の中で、デリバリー配達の仕事を総合的に見ると、1時間あたりの収入が10元(約200円)で、これが普通であるがゆえに、非常に辛く、過酷な重労働だと述べました。

 邢斌さんは8月23日にWeChat公式アカウント「東夷書院」で、「2022年の冬、臨沂市でデリバリー配達をしていた」と題する記事を投稿しました。この記事はネット上で話題となり、多くのメディアが彼にインタビューを行いました。動画共有サイト「ビリビリ(bilibili)」は、彼のデリバリー配達の体験を紹介する動画まで制作しました。

 邢斌さんは記事の中で、2022年12月末に「美団外買」、「蜂鳥即配(アリババ傘下)」、「閃送(Flash Ex)」、SF Express(順豐速運)などのデリバリーサービス配達会社に登録して働いていたことを明らかにしました。

 それらを比較した結果、邢斌さんは「美団外買」が従業員に対して最も厳しいこと、市場シェアも最も高いことが分かりました。次に「蜂鳥即配」が続き、「閃送(Flash Ex)」とSF Express(順豐速運)は比較的厳しくありませんが、注文数が少ないことが分かりました。

 「美団外買」では、バイク配達員はプロ、専属、そしてクラウドソーシングの3つのクラスに分けられています。

 プロの配達員は、毎日午前9時に出勤し、夜9時まで働きますが、実際にはさらに長時間働くことがあります。彼らは会社のシステムから割り当てられた注文を受け取り、1注文あたり3~4元(約60~80円)を稼げます。彼らは休暇を取ることができず、月に4日間だけ休むことが許されていますが、休む日を予め1週間前に報告する必要があります。風雨や雪など悪天候ほど、時間厳守の配達が求められます。悪いレビューを受けると、200元から500元(約4000円から1万円)の罰金が科されます。

 専属配達員は、毎日12~14時間も働き、1か月に26~28日働かなければなりません。平均して、月収は6000元(約12万円)で、特に一生懸命頑張れば8000元以上(約16万円以上)を稼ぐことができます。言い換えれば、彼らの収入は市街で信号や一時停止標識を無視し、命がけで稼いていることを意味します。

 専属配達員と比べて、アマチュアのクラウドソーシング配達員はさらに厳しい状況にあり、悲惨な3番目の最下層に位置します。彼らは低価格の注文を受け取り、通常は専属配達員が選んでいないものを配達するしかありません。これらの注文は通常、辺鄙か遠い場所にあるか、エレベータのない6階建ての建物に住む顧客宅へのものです。必死に頑張るクラウドソーシング配達員は、毎日15~16時間、1か月休まずに働いて、月収がようやく7000元(約14万円)に達することができます。
邢斌さんは、1か月で2000以上の注文を配達し、数百の企業、2000以上の顧客のドアベルを鳴らしたと述べました。平均して、毎日原付バイクで210キロを走り、32000歩歩き、110階分の階段を登りました。彼によると、1か月の中で1時間あたりの収入がわずか10元(約200円)であることは一般的であり、1時間あたりの収入が20元(約400円)は上限だと述べました。

 邢斌さんは1か月の間に、デリバリー配達会社の配達員に対する過酷な状況を目の当たりにしてきました。特に保険の面での待遇が非常に劣悪であることを指摘しました。邢斌さんによると、彼が勤務したいくつかの会社では、毎日3元(約60円)の保険料を差し引かれますが、配達員が事故に遭った場合、最高で6000元(約12万円)のケガの保険(傷害保険)が提供されるとのことです。それでも足りない場合は、地方の運営業者が負担することになっています。さらに、それでも賠償が不足する場合、地方の運営業者は責任を逃れるために辞職すると、苦情や訴訟を申し立てたくても相手を見つけることができなくなります。デリバリー配達社の本部は「業務委託」の形をとっているため、訴訟の対象にならず、訴えることもできないのです。しかしながら、このような重大な傷害事故が毎月市内で発生しています。

 配達員が亡くなった場合、配達会社の本部とは何のかかわりもなく、訴訟を起こしてもほとんど勝訴できないという現実があります。実際、これまで勝訴した人は一人もいません。

 2023年2月2日に発表された「中国デリバリー配達員の職業グループ調査報告書」によると、配達員の損傷保障のカバレッジ率は低く、アンケート調査に参加したデリバリー配達員のうち、損害保障が一切ない人は24.9%を占めています。

 アンケート調査データによると、デリバリー配達員は週平均で6.4日働き、1日平均で9.8時間働いており、そのうち半数以上が週7日間働いています。また、デリバリー配達員が職場で経験する不快な出来事の中で、最も多いのが「職業差別」で、36.0%の割合を占めています。

 邢斌さんは、配達中に、顧客の中には大きなゴミ袋を持ち出して捨てるように頼む人もいると述べました。その際、それが自分の仕事ではないと伝えると、相手は「良いレビューをもらいたいだろう」と言われ、仕方なくゴミを捨ててあげるしかありませんでした。なぜなら、顧客から悪いレビューを受けると罰金が科せられるからです。そして、このような事例は頻繁に発生しています。

 中国のデリバリーサービスは出前アプリをインストールしてから、すぐに注文できます。スマホで注文後、通常は30分から40分ほどで届き、配送中は配達員の動向をリアルタイムで追跡できます。

 ある時、邢斌さんは同時に2つの注文を受けました。顧客は同じ団地に住んでおり、邢斌さんはプラットフォームの指示通りに、最初の注文を届けた後、2つ目の顧客の家に到着し、ドアを開けたのは10代の若者でした。その若者は邢斌さんに対し、なぜ団地を大きく迂回してから配達したのかを問い詰め、非常に失礼な言葉遣いでした。さらに、その若者の両親も出てきて、邢斌さんを非難しました。

 邢斌さんが1か月に接触したデリバリー配達員の中には、最も年長の方が66歳でした。また、激務の割に月収3000~4000元(約6万円から8万円)しか稼げない女性配達員も多くいます。彼女たちは、家にいる子供や病床にいる老人、銀行からの住宅ローンの返済通知などに向き合いながら、必死に働いています。
危険で辛い仕事であっても、彼らは3000元から4000元(約6万円から8万円)の収入から離れることができず、これが彼らの現状です。

 ニュースサイト「搜狐(ソウフ)新聞」4月28日の記事によると、中国のデリバリー配達大手に登録している配達員の数は数千万人に達し、美団外買だけでも2021年には527万人、2022年には624万人に増加し、1年間で97万人以上の新しい配達員が加わったとされています。

 記事によると、現在、中国国内では就職難が続いており、実体経済や消費データの回復が遅々として進まないため、多くの人々がデリバリー配達業界に流れ込むしかない状況に追い込まれています。

 中国の塾産業が当局の取り締まりにより、数千万人もの従業者が仕事を失っており、これらの失業者は他の業界に移るしかない状況です。不動産業界も同様で、多くの不動産関連の従業者が失業することで、他の業界の競争状況も変化が生じる可能性があります。

 ある業界の崩壊は、社会全体がその結果として生じる労働力の散逸を負担しなければなりません。これは市場の在り方で、市場の運営ルールに反すると、最終的な代償は必然的に市場全体のすべての個人が負担しなければならないということを意味します。

(翻訳・藍彧)