(イメージ / Pixabay CC0 1.0)

 「鷗鷺忘機」は『列子・黄帝』にある物語であり、古琴曲の一つである。

 『列子・黄帝』によると、あるところに住んでいた漁師は、毎日海に出る時、鷗(カモメ)と一緒に遊んでいた。常に百羽以上のカモメが飛んで来て、彼の周りに止まり、一緒に遊んでいた。

 ある日、漁師の父親は「あなたは毎日カモメと仲良く遊んでいる。ならばカモメを捕まえてきてほしい。私もカモメと遊びたい」と言った。

 翌日、漁師は海に出てカモメを探した。しかし、カモメたちは空で飛んでいるだけで、漁師の近くに寄ってこなかった。動物も人間の心理を分かるものだという故事である。

 清王朝期に作曲された「鷗鷺忘機」という古琴曲は、水平線から太陽が昇ってくる早朝に、カモメたちが自由に飛んでいる景色を表現している。

 有名な古琴の演奏者管平湖(1897―1967)による「鷗鷺忘機」:

注:
 列子(れっし)は、中国戦国時代の鄭の国に住んでいた哲学者・列禦寇の尊称である。『漢書・芸文志』には列禦寇の著として『列子』がある。『列子』は『天瑞』、『黄帝』、『周穆王』、『仲尼』、『湯問』、『力命』、『楊朱』、『説符』の8巻からなり、多くの寓話を用いて道家の思想を後世に伝えている。

(文・黎宜明)