中国上海市にある東方明珠電視塔

 中国人による海外投資の累積額が600兆円を超えたと、米国の『フォーブス誌』は伝えている。昨年、100万ドル以上の純資産を持つ1万人もの中国富裕層が海外に移住したという。過去1994年から2003年の10年間で7万2650人、2004年から2013年の10年間では14万3700人に上る。主な移住先は、米国、オーストラリア、カナダとなっている。

 富を生む環境と地位を捨て異国の地を選択する理由は「大別して二つある」と、中国問題を専門とする一部のアナリストらは見解を示している。

1.教育問題
 共産党(以下党)の文化を唱え、浸透させることが中国の学校教育の基盤でもある。現実には教師の質や学校の教育方針に、疑問を感じる保護者は少なくはない。良質な教育環境を海外に求めるようになったことが、一つの表れとなっている。移住関連のコンサルタント会社「Visas Consulting Group」の調査によると、全体の約75%が子供の教育問題をあげていた。

2.個人資産の保護
 その社会的な特性により、個人資産を保護する必要性に迫られている、という実情がある。

1) 中国国内の投資環境は法律も整っておらず、制約も多くあるため投資活動は制限される。

2) 生き残りと発展のためには党と癒着せざるを得ないが、企業活動は常に党の監督下におかれることになる。

3) 「腐敗=富」という図式が、党の支配下では恒常的に存在する。党の援助と法の抜け道により財をなしている者もいるが、政変があった場合、直ちに粛清の対象となることを彼らは意識している。

 中国国内では腐敗が横行、環境破壊にも歯止めがかからない中、豊かさを手にした人々はむしろ不安を抱えながら日々を過ごしているともいえよう。安息や自由を外地に求める――この状況は今後も続くことになるであろう。
(文・田 秀久)