清王朝の康熙帝の時代、北京城延寿寺街の廉価本屋で一人の書生(中国古代の学生)らしき青年が帳場(勘定所)の近くで本を読んでいた。この時、「呂氏春秋」を購入し支払いをしていた少年が誤って銅銭を落とし、うちの一枚がこの青年の足元に転がってきた。青年は周囲を見回し、落ちている銅銭を右足で踏んで隠した。少年が店を後にすると、青年は腰を曲げて足元にある銭を拾った。

この青年の銭を踏み、そして拾い上げる一連の出来事を、店の奥に座っているおじいさんが見ていた。彼は青年をしばらく見つめ、近づいて話かけた。おじいさんはこの青年が範暁傑という名前で、国子監(国立大学に相当する)で助教をしている父親と共に上京し国子監で学んでいることを知った。偶然延寿寺街を通り、廉価本屋の本がよその店より安かったため入ってみたとのことだ。おじいさんは冷ややかに笑ってその場を後にした。別れた。

その後、範暁傑さんは国子監の学生として働き始めた。しばらくして、彼は吏部の試験に合格し、江蘇省常熟県の県尉に選任された。範暁傑は大喜びで赴任した。南京に着いた翌日、彼は常熟県の上級役所・江寧府に行き、名刺を差し上げ上司に会おうとした。当時、江蘇省の巡撫(提督)湯斌はまさに江寧府にいた。彼は範暁傑の名刺を受け取ったが、面会しなかった。範暁傑は次の日また行ったが結局会えなかった。このようにして十日間が過ぎてしまった。

第十一日目、範暁傑は我慢してまた伺った。役所護衛官は彼に対し、「範暁傑は常熟に赴任に行けなくていい。お前の名前はすでに弾劾すべき人員として上奏文に書かれてある。お前はクビだ」という巡撫の命令を伝えたという命令を伝えた。

範暁傑は不思議に思い、「巡撫様はなぜ私を弾劾なさるのですか?私は何の罪を犯したのですか」と聞いた。
「金銭に貪欲すぎるからだ」と護衛官は答えた。

「なぜだ?」と範暁傑はびっくり仰天した。「まだ就任していないのに、貪欲の証拠があるわけがない。巡撫様はきっとなにか間違えたに違いない」と思い、無実を証明する為に巡撫に面会することを要求した。

護衛官が中に入って報告した後、「範暁傑、延壽寺街の本屋さんのことを忘れたか?おまえは書生の時から一文の銭を命のごとく愛していた。今回は幸運にも地方官僚になったが、知恵を振り絞って汚職を働き、役人の帽子をかぶった強盗になるだろう。今すぐ官印を手放しここを離れてください。百姓を苦しませないでください。」と巡撫の話を伝えた。

範暁傑はようやく廉価本の店で出会ったおじいさんのことを思い出した。彼はまさに私服で外出していた巡撫の湯斌であったのだ。

古の人は、「善の小なるを以て之を為さざることなかれ、悪の小なるを以て之を為すことなかれ」と説いた。つまり、良いことは小さいことだからといってしないでいてはいけない、悪いことは小さいことだからといってしてはならないということだ。範暁傑の物語はまさに後者の例であり、悪事を慎まなければならないことを物語っている。

(翻訳・時葦瑩)