中国の駐フランス大使、盧沙野(ろ・さや)氏(58歳)は、旧ソ連諸国について「国際法上、有効な地位を持たない。主権国家としての地位を認める国際的な合意がないからだ」と発言し、たちまち関係各国などの非難を浴びました。

 しかし、専門家によると、このさりげないように見える言葉は、実は中国共産党が30年間にわたって抱いてきた最も深い恐怖を暴露していると指摘しました。つまり、中国共産党が旧ソ連のように突然崩壊して滅びるのではないかという運命を恐れているのです。
 
廬沙野の戦狼的発言

 盧沙野大使は4月21日にフランスのテレビ局のインタビューで、旧ソ連諸国が「国際法上、有効な地位を持たない。主権国家としての地位を認める国際的な合意がないからだ」と発言しました。この発言は、駐仏中国大使館の公式WeChatアカウントに掲載されましたが、後に削除され、大使館は取材に応じませんでした。

 この発言は、エストニア、リトアニア、ラトビアなどの国々で怒りを引き起こしました。中国の在フランス大使館は4月24日に声明を発表し、「個人の見解であり、過剰な解釈をすべきでない」と述べ、これらの国々をなだめました。

 しかし、スタンフォード大学の中国経済・制度研究センターの上級研究員で、元中国共産党総書記・趙紫陽のシンクタンクに所属する呉国光氏は、廬氏の発言が中国共産党指導者の本音を反映していると考えています。

 吴国光氏は4月27日にボイス・オブ・アメリカに寄稿した記事で、「かつて中央外交部政策研究局長を務めた盧沙野大使の発言が、中国共産党の外交政策に合致していないと主張する人はいるのだろうか」と述べました。

 かつて習近平氏の側近であり、2015年から2016年にかけて中国共産党中央外事工作委員会弁公室の政策研究局の局長を務めた盧沙野大使は、おそらく駐在外交大使の中で、高層の外交意図を最も分かる人物の一人であるだろうと、吴国光氏が述べました。この政策研究局のトップは習近平氏です。

 フランソワ・ゴドマン国際関係研究所アジアセンター所長は4月22日のツイートで、「確かに、形式的には盧沙野氏は並はずれているかもしれないが、彼は大胆にも中国共産党の真の立場を示している可能性もある」と述べました。
 
中国共産党指導者の懸念事

 2012年12月、中国共産党の新指導者に就任した習近平氏は広東省を視察した際に党内メンバーに対し、私たちは旧ソ連の「深い教訓」を学ばなければならず、旧ソ連では政治的な腐敗、暴走したイデオロギー、そして軍隊の不忠が共産党の崩壊を招いたのだと述べました。また、2013年初めの内部演説でも、習近平氏は旧ソ連の「深い教訓」を学ぶ必要性を改めて強調しました。
また、2013年には中国社会科学院がドキュメンタリー映画『旧ソ連崩壊から20年』を制作しました。この映画では、旧ソ連の崩壊とソ連共産党の滅亡は、2つの主要な原因に帰結するとされています。すなわち、ゴルバチョフ氏が西側民主化改革を導入し、党の厳しい思想統制を緩めたこと、エリツィン氏が国有企業の民営化を推進したことです。当時、各階層の幹部から一般役人まで、このドキュメンタリー映画を視聴することが義務付けられました。
さらに2017年、中国共産党は党規約を改正し、「党政軍民学、東西南北中、党は全てを領導する」という内容を追加しました。
 
大学に対する統制を強化

 中国共産党は、旧ソ連崩壊の轍を踏むことを恐れ、社会のあらゆる分野での統制を強化しています。2014年12月、習近平氏はある会議で、中国共産党による大学の指導を堅持するよう提唱しました。それ以来、中国の大学キャンパスでは、教員の授業を監視する党の「特派員」や、授業中に中国共産党に批判的な発言をした教員を通報する学生、さらには大学の教室に監視カメラを設置するなどの現象が現れるようになりました。

 2018年11月6日、重慶市の地元メディアに大学入学試験の出願資格に関する情報が掲載されました。しかし、その中には、「政審(政治思想審査)」という言葉が含まれていました。つまり、大学を受験するには思想調査に合格する必要があるということです。

 「政審」という用語は、文化大革命の際に使用され、調査対象者(本人およびその家族や親族を含む)が中国共産党のイデオロギーと一致しているかどうかを調査するための用語でした。もし本人またはその家族が、共産党が適切と認める政治的思想を持っていないと判断されると、子供たちは大学進学の機会を失ってしまう仕組みになっています。

 その数日後の11月9日、福建省の教育当局も「イデオロギー、政治、道徳的性格評価」が事前審査の対象になると学生に公表していたことが明らかになりました。

 福建省の教育当局によれば、「中国憲法の基本原則に反する思想を持ち、または実際に行動を起こした者、あるいは異端宗教の活動に参加した者、その他深刻な状況を抱える者は『高考(大学の入学試験)』の受験を許可されない」という内容の通知を行いました。

 四川外国語大学は2021年3月8日、各学部で「キャンパスの安全情報員」3人を募集する予定だという学校内の通知を発表しました。この通知には、上級公安機関の要求に基づき、キャンパスの安全に関する情報を収集・報告し、キャンパス内の政治的安定を維持する役割を担ってもらうことが明記されています。

 この同通知では、募集対象を2年生、3年生、大学院生1年生に限定することが明記されており、中国共産党党員や学生幹部、マイナー言語を話せる者、貧困者が望ましいと強調されています。謝礼とボーナスは重慶市公安局から支給されるとされています。

 情報筋によれば、キャンパス内におけるいわゆる「情報員制度」の拡大は、実際には学生の中に「密告者」を配置するためのものだったとされています。

 近年、中国大学におけるイデオロギー統制はエスカレートしており、当局は学校に監視員を密かに配置し、授業中の教師の発言や学生の動向を監視しています。2019年以降、少なくとも数十人の教職員が「情報員」の密告によって教職を失ったと報告されています。
 
企業に対する統制を強化

 中国共産党は企業を統制するために、国有企業、民間企業、外資系企業にも党支部を設置しています。

 2008年末、アリババグループは党委員会を設立し、党員数は2094人でした。バイドゥとテンセントも2011年に党委員会を設立し、党員数はそれぞれ2500人と3386人でした。中国の新浪網は2017年7月1日の記事で、ネットショッピングプラットフォームの京東は全国に154の党支部を設立し、党員数は10730人となっていることを報じました。

 中国版「ウォール・ストリート・ジャーナル」によれば、中国共産党はフランスの化粧品会社「ロレアル」の中国支社や、フランスの自動車メーカー「ルノー」の中国合弁会社など、外国企業にも党支部を設立していると報じられました。

中国共産党の機関紙「人民日報」によれば、2016年の時点で、約7万5000社の外国企業が党支部を設立し、中国に存在する外国企業の70.8%を占めていると主張しました。

 さらに、驚くべきことに、中国共産党は、外資系企業の共産党党員に対し、職場で党章を着用するよう要求しています。

世界4大会計事務所(ビッグ4)の1つであるアーンスト・アンド・ヤング(EY)の中国部門(EYチャイナ)はこのほど、中国共産党員の社員に対し、習近平氏への政治的忠誠心を示すため、職場で党員バッジを着用するよう求めていることが分かりました。EYチャイナの党委員会が今年2月23日、社内メールを通じて全党員に共産党バッジをつけるように指示したといいます。

 しかし、これらの措置は、中国共産党が歴史的に淘汰される運命から救えるのでしょうか?

(翻訳・藍彧)