三峡ダム、長江流域の高温と干ばつをもたらす。(希望之声より)

 中国の長江(揚子江)流域、特に三峡ダムの上流に位置する重慶市では8月、人類史上稀に見る干ばつ・高温の気候により、洪水期に水が枯渇する異常事態が発生しました。では、気象や水源の異常の原因は何なのでしょうか? 米国在住のセルフメディアを運営している江峰(ジャン・フォン)氏は、多くの専門家の意見を総合した上で、自身のYouTubeチャンネルでこう解説しています。

 まず、三峡ダムの位置選択に問題があります。近年、専門家が三峡ダムの放流ゲート付近を調査した際に、地勢の落差がとても大きいと判明しました。当初、中国共産党中央委員会の指導者は、建設予定のダムの下に花崗岩の構造物があることだけに注目し、花崗岩の上にダムを建設すれば安全だと考えていたのです。しかし、三峡貯水池は周囲数千キロの一大プロジェクトであり、地盤が耐える重さは決してダム自体の重量だけではなく、貯水される水全体の重さなのです。

 これをバケツで水を運ぶことに例えると、 強化プラスチックでできたバケツの持ち手は、重い水を持ち上げるのに十分な強度がありますが、バケツの底面が薄いプラスチックでできていた場合、水をいっぱい入れて持ち上げたときにバケツの下から水が漏れてしまうのと同じ道理です。

 花崗岩地帯から数十キロ離れた巴東(ばとう)地域は、地質学的に断片化した地震地帯として知られており、特に先に述べた三峡ダムの排水口付近では、そのような地殻変動による断片がより危険であるとされています。

 ダム全体の水がこの地域に押し寄せているため、もし地盤がそれに耐えられる臨界点に達した場合、人類史上最大の災害となりうるでしょう。

 では、重慶市の記録的な猛暑はどのようにもたされたのでしょうか?

 三峡ダムの建設後、勢いよく流れる長江は活力を失い、1000キロメートル近い水域が淀んだ水の溜まり場となってしまいました。流れの速い水は気温を下げることができますが、静水は冷却機能がかなり低下してしまいます。三峡ダム付近は地勢の落差が大きく山に囲まれているため、長江表面の水が吸収した熱が拡散できず、三峡ダムに近い重慶市では巨大な高温水蒸気帯になり、一日中「サウナ天気」となっています。これが、今年の重慶市の記録的な高温の原因であります。

 ここからは、洪水期に水が枯渇する現象が起こる理由を紹介したいと思います。

 中国公式メディアの多くは、今回の長江流域の高温と干ばつは三峡ダムとは関係なく、地球規模の気候変動が原因であると解説しています。

 これはまったく成り立たない理論です。現在の高温と干ばつは長江流域に集中しており、中国の他の地域はまだ雨季で雨が降っています。干ばつも高温もない江蘇省連雲港市(れんうんこうし)や河南省などでは暴雨の中でPCR検査をするための行列が出来ていると報じています。長江流域以外では、地球気候の影響を受けないとでもいうのでしょうか?

 実は、本当の原因は見つけることができます。

 四川盆地(しせんぼんち)と長江下流域は、長江というたった一つの水路でつながっています。気候的な観点から見ると、長江は四川盆地と外界との間の水と空気の交換を行う最も重要な通路であります。現在、この隙間に建設された高さ200mの三峡ダムが、長江の水と空気の流れを妨げています。

 三峡ダム建設前の長江は、三峡ダムの下流に位置する宜昌市(ぎしょうし)から上流の重慶市まで、長江の風が下流から上流に向けて非常に冷たい風が吹いていました。水滴ができるには、冷たい空気と暖かい空気が出会う必要があります。三峡ダムができてからは、下流からの冷たい風が、高さ200mのダムによって上流まで届かなくなり、水滴ができなくなったのです。すると、上層部の積乱雲は地上からの冷気と出会うことができず、雨を降らせることができず、他の地域へ流れていくことになります。近年、陝西省南部を東西によこぎる断層山脈である秦嶺や中部平原地域で暴雨が増えているのは、まさにこれが原因だったのです。

 中国の文献では、よく三峡ダム周辺は一年中雲と霧に包まれていると表現していましたが、今三峡ダムの周辺では、そのような光景は見られなくなりました。長江上流域では降雨条件を作り出すことができなくなったため、降雨量が減り、高温と相まって中下流域に通常の水量が奪われ、長江流域の干ばつが形成されることになったのです。

 三峡ダムが貯水して以来、長江上流の四川省東部や長江中流の湖北省洞庭湖(どうていこ)、江西省にある国内最大の淡水湖である鄱陽湖(はようこ)では乾季が頻繁に訪れるようになりました。

 古代中国では、鄱陽湖と洞庭湖が「江南」という概念の中核をなす地域でありました。三峡ダムは長江流域全体の生態系を変えたばかりでなく、中国文明の歴史も変えてしまいました。三峡ダムが崩れなくても、魚米之郷(ぎょうまいのさと)といわれる「江南」の豊かさは、干ばつによる水不足で次第に消えていくのでしょう。

 今年の極端な気象のほか、長江上下流での停電や電力制限、農作物の枯れや家畜の大量死などの現象は、「江南」が衰退していることを物語っています。

(翻訳・田玉子)