明王朝期の中国古典家具(Gisling, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons)

 中国の古典的な家具は、中国伝統文化の重要な体現で、長い歴史の中で、風格ある独自の体系を作り上げてきました。西洋の古典的家具と比べると、中国の古典的家具は、エレガントで美しい造形ラインの追求に重点をおいています。

 今回は、そんな中国の古典的家具について話したいと思います。

 中国魏・晋の時代、人々は床に直接座るのが普通だったので、家具へのこだわりが、あまり高くありませんでした。しかし、唐王朝期に入ると、机、箱、櫃(ひつ)、床几(しょうぎ)、屏風、棋局(ききょく、碁盤)、椅子などの、様々な家具が現れ始めました。唐王朝期の家具は、多種多様な材料で作られ、高級木材のほか、竹製、籐(とう)製の家具もありました。

 明王朝期は、中国家具のデザインと製作工芸が最も盛んな時期でした。これまでの家具から完璧な発展を遂げ、その最大の特徴は、造形美に長けるほか、選び抜いた材料を使ったデザインと実用性の融合でした。四角い造形に丸い形を使い、部品どうしの継ぎ目が分からないほどの精密さ、デザインに良く似合う繰形(くりかた=モールディング)、そしてとても滑らかな表面仕上げ。特に、糊を使わず、様々な「ほぞ継ぎ」を合理的に使用した丈夫な家具は、明王朝期の家具製造技術の高さを物語っています。

 清王朝期になると、装飾品を工夫し、華やかな雰囲気を醸し出した家具が現れます。それぞれの生産地区によって、独特な作風が形成されました。特に「蘇作(蘇州産)」、「京作(北京産)」、「広作(広州産)」は当時の代表的なスタイルです。

 乾隆帝時代、多くの熟練工と優秀な家具職人が輩出されました。その職人たちが造った、精巧な彫刻や華やかな装飾が施された、独特なスタイルを成す家具は、当時大流行し、現在でも非常に高い鑑賞価値があります。

 中国の古典家具は、大まかなに、椅凳(椅子類)、桌几案(机類)、床榻(寝台類)、櫃架(箱・戸棚類)、台架(鏡台・洗面台類)、屏風及びその他の小物などに分類されます。今回は「桌几案」と呼ばれる机類について少し詳しく説明します。

 机類は、更に構造の違いにより「桌」「案」「几」に分類されます。「桌」は現在で言うテーブルのことで、天板の四角(よすみ)の近くを長めの脚が支える形です。それに対し「案」は、脚が「桌」より天板の内側に取付けられ、脚と天板の接合部に精巧な装飾が施された物も少なくありません。そして「几」は主に、座っている時に便利に使える高さで作られる「案」のことを指します。

 「條几」「條桌」「條案」などは、その名前通り、横幅に長い長方形の机です。横幅の両端が中央部と同じ高さであれば「平頭案」と呼ばれますが、両端が中央部より高くなるのは「翹頭案」と呼ばれます。

平頭案(香港クリスティーズのオークションハウス より)
翹頭案(國立故宮博物院・台北、パブリック・ドメイン)

 形や構造で名称が異なりますが、用途による名称の違いもあります。例えば、「香几(こうき)」は香炉をのせる机のことを指します。特徴として、美しい曲線形の脚を持ち、天板が四角いものより、丸い香几の方が多くみられます。脚の数も、三つ脚から八つ脚まで、多くの仕様があります。ただし、香几の共通の特徴として、全体が縦長の形で、その上に一つの香炉だけが置かれます。香几を置く部屋には他の家具を置くことが少なく、部屋の真ん中に置かれることが多いです。また、香几からの派生品として、部屋の片隅に一輪の花をのせて部屋を美しく飾る「花几」と、茶具をのせてソファの前に置く「茶几」などは、現代の家庭でも多く見られる家具となっています。

香几(國立故宮博物院・台北、パブリック・ドメイン)

 その他、「炕桌」「炕几」「炕案」はその名前通り、中国北部の家に良くみられる、焚き口から延びる煙道の上に床を張り、煙の熱を利用して暖を採る「炕」と呼ばれる床暖房の上で使われる机のことで、比較的小さく作られます。

 「酒桌」と「半桌」は、少々小さくて縦長い四方形の机のことです。北宋王朝期に現れた「酒桌」は主に酒宴で使われていました。天板の四方に天板より少し高い縁(ふち)「攔水線」が付いているので、液体がこぼれ落ちるのを防ぎ、実用性の面でも愛用されていました。「半桌」はその名前通り、「八仙桌」の約半分の面積の机のことです。一台の「八仙桌」では足りない場合、「半桌」と「八仙桌」をつなげて使用することもできます。

 「方桌」は現代の家庭でも多く見られる家具の一つで、その代表格は前述の「八仙桌」です。一般的な「八仙桌」はやや大き目な正方形の机です。四方に二人ずつ、合わせて八人で使え「まるで八仙(註)」のようだ」ということで、「八仙桌」と名付けられ、今でも親しまれています。

 「書桌」「書案」「画桌」「画案」は広めで大きな四方形の家具で、小さめのものでも前述の「半桌」より大型です。外観と構造において、「條几」や「條桌」と似ていますが、奥行きは大きくなります。特に「画桌」と「画案」は画用紙を広げて使うという作画の需要により、机の奥行きを広くしています。「書桌」と「書案」は引き出しを設置していますが、「画桌」と「画案」は作画の邪魔にならないように、引き出しを設置しません。

 いかがでしょうか。中国の古典家具について少しだけ紹介しました。古代の中国家具が現在の人々を魅了するのは、その希少価値だけではなく、構造が物語っている実用性と、外観の美しさの融合なのではないでしょうか。

 註:八仙(はっせん)は、李鉄拐、漢鍾離、呂洞賓、藍采和、韓湘子、何仙姑、張果老、曹国舅の八名で、道教の仙人のなかでも代表的な存在である。

(文・戴東尼/翻訳・常夏)