月へ帰って行くかぐや姫(土佐広通、土佐広澄・画)(パブリック・ドメイン)

二、昇天する壮観な場面

 いよいよ八月十五日になり、帝から派遣された多くの兵士たちの守衛も、かぐや姫を迎えに来た天人たちの前では何の役にも立ちませんでした。天人の王と思われる人が現れ、かぐや姫を返すよう翁に命じました。翁は必死に抗弁を試みるも、聞き入れられませんでした。そしてなぜかかぐや姫を隠していた戸も、ひとりでに開いてしまいました。かぐや姫は不死の薬と手紙を翁と帝に残し、天の羽衣をまとい、100人の天人と共に静かに天に帰って行きました、との記述があります。

 ここでは、作者は天人達がかぐや姫を迎えに来る壮観な場面を見事に描き、そして、天人の前での人間の無力さ、愚かさについての描写もとても印象的でした。

『月宮迎』(月岡芳年『月百姿』(パブリック・ドメイン)

 中国の道家では、「白日昇天(はくじつしょうてん)と言う仙人になる方法があるという言い伝えがあります。作者はこの場面で、その様子を見事に再現し、分かりやすい形で世間の人々にそれを伝えたと思われます。「白日昇天」はただの伝説ではなく、実際に、中国の黄帝(紀元前2510年~紀元前2448年)も修行して白日昇天した1人と言われています。3000年に1度しか咲かない優曇華の花を目撃できるのと同じように、『竹取物語』が予言した昇天の壮観な場面を、私たちは目撃できるのでしょうか?実に興味津々です。

三、不死の山の伝説

 最後に、帝はかぐや姫が残していった手紙を読んだ後、深く悲しみ、何も食べられず、詩歌管弦もしなくなりました。帝は大臣や上達部を呼び「どの山が一番天に近いか」と尋ねると、ある人が駿河の国にある山だと言うのを聞き、かぐや姫からの不死の薬と手紙を、壺も添えて使者に渡し、それらを駿河国にある日本一高い山で焼くようにと命じました、との記述があります。

 その命を受けた者は、士らを大勢引き連れて、不死の薬を焼きに山登りました。そこから、その山は「不死の山」(または富士山)と名づけられ、その煙は今も雲の中に立ち昇っていると言い伝えられています。

『凱風快晴』葛飾北斎作(パブリック・ドメイン)

 日本最古の物語だけあって、日本の地名とのつながりをここで示しています。一方、「不死の山」というように、日本と言う島国は、台風や地震、火山活動などの自然災害を伴い、何度も甚大な危機に遭遇しながらも、その都度それを乗り越えてきました。日本は不死鳥のように屈することなく存続し、これからも永久に存続して行くことでしょう。

 『竹取物語』は本当に面白く、興味が尽きない作品です。

(おわり)

(文・一心)