宋・蘇漢臣 「秋庭戯嬰図」一部(國立故宮博物院・台北、パブリックドメイン)

 中国の伝統絵画の中には、子供たちが遊戯を楽しむ場面を描く「嬰戯図」という題材がある。絵画の描写は妙趣に富んでおり、その天真爛漫な世界を目にすれば、見る者が思わず若かりし頃の無邪気な自分を思い出して微笑むに違いない。

 「嬰戯図」は、干支や縁起物、そして祝福の意味が込められた品々が絶妙に組み合わされ、中国文化において象徴的な意味を持つ。例えば、「多子多福(子宝に恵まれる)」、「赤子之心(純粋な心持ち)」、「兄弟和睦(兄弟仲良し)」、「五子登科(お子様が将来有望)」、「五福臨門(福来る)」,「蓮年有余 (裕福な暮らしができる)」、「麒麟送子(コウノトリが赤ちゃんを運んでくる)」などは世代を超え、人々に幅広く愛され、幸福と和睦を祈る素朴な願いを表している。

宋・蘇漢臣「秋庭戯嬰図」(國立故宮博物院・台北、パブリックドメイン)

 絵の中の庭園には、姉弟と思われる二人が小さな丸椅子を囲み、棗(ナツメ)転がしに夢中になっている可愛らしい姿が描かれている。近くの丸椅子と芝生には、回転台、小さな塔とシンバルなど精巧な玩具が散らばっている。背景部分の巍然とした太湖石、その周りを咲き誇る芙蓉と雛菊、前景に丁寧に添えられた露草といった要素の画面構成は、太湖石の陽剛な風格を和らげると同時に、秋という節気の魅力を存分に演出している。二人の遊んでいる棗そのものは、中国北地方の農産物として当時の江南地域では生産されていなかった。リアリティに長けた緻密な描写という宮廷院画の特質から、本作は徽宗の宣和画院の時期に完成されたものと推測できる。

芙蓉。宋・蘇漢臣 「秋庭戯嬰図」一部(國立故宮博物院・台北、パブリックドメイン)
雛菊。宋・蘇漢臣 「秋庭戯嬰図」一部(國立故宮博物院・台北、パブリックドメイン)
露草。宋・蘇漢臣 「秋庭戯嬰図」一部(國立故宮博物院・台北、パブリックドメイン)

全体配置

黒漆の椅子

 絵の両サイドに置かれた白柄で黒漆の丸椅子に関しては、南宋時代の既存漆器が少ないことから、今では重要な参考資料とされている。黒漆には「螺鈿」と呼ばれる紋飾技法が用いられたが、珠貝の光沢を見受けない為、「平脱」技巧の併用が推測できる。前者は漆器に珠貝を貼ることに対し、後者は金箔か銀箔を貼り、乾燥後に髹漆工程を経たものである。

黒漆の丸椅子。宋・蘇漢臣 「秋庭戯嬰図」一部(國立故宮博物院・台北、パブリックドメイン)

玩具

 子供たちが棗転がしに夢中になっている右側には、人馬転輪、八宝紋紙格、玳瑁盤、コマ、赤い仏塔、ペアの小鉢などが丸椅子に散らばり、地面にはシンバルも置いてある。画家は、玩具を散らかし、興味を持ったものに気を取られると、手持ちの玩具をほったらかしがちな子供の自然な仕草を取り入れている。

玩具:人馬転輪、八宝紋紙格、玳瑁盤、コマ、赤い仏塔、ペアの小鉢。宋・蘇漢臣 「秋庭戯嬰図」一部(國立故宮博物院・台北、パブリックドメイン)

遊戯

 棗転がし:棗三つ、竹ひご一本、木のスティック三本。棗の一つは種を剥き出し、下を三本のスティックで支えておく。残り二つを竹びこの両端に引っ掛け、その竹ひごを剥き出しの種の上においたら、軽く押すだけで簡単に回転できる仕組み。

棗転がし。宋・蘇漢臣 「秋庭戯嬰図」一部(國立故宮博物院・台北、パブリックドメイン)

服装

 姉弟の姉のほうは、全体が白い花柄で襟と袖口周りが褐色のヘチマに、白の花柄のズボンを履いている。双鬟には青と赤のレースを帯び、かんざし、真珠などで飾り付けしている。弟は、赤のヘチマと花柄の白いズボンを履き、髪型は当時一般的な子供の結い方をしている。

双鬟。宋・蘇漢臣 「秋庭戯嬰図」一部(國立故宮博物院・台北、パブリックドメイン)
袖口周りが褐色。宋・蘇漢臣 「秋庭戯嬰図」一部(國立故宮博物院・台北、パブリックドメイン)

(文・雯子 / 翻訳・梁一心)