(写真 / Laurie Jones ウィキペディア CC BY-SA 2.0

 道路・港湾・空港の連携によって60カ国以上の国々を繋ぐことを目的とする、中国共産党政権の「一帯一路(OBOR: One Belt One Road)構想」はインドから強い反対を受けている。1兆ドルもの投資の影にある中国共産党政権の意図は何なのか。

インドは安全保障を懸念

 一帯一路構想には、その一部にインドが独自の領土とみなすパキスタン領カシミールを含んだ「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」が組み込まれている。したがって中国がこの地域に影響を及ぼせば、インドに直接的な脅威がもたらされる可能性がある。

 「我々は地域のつながりを促進したいと思いますが、一帯一路構想はその内部に『中国・パキスタン経済回廊』を含んでいます。つまり、一帯一路構想はインドの領土を通過しているとも言えます。このことが私たちの立場を難しくしているのです」
インディアンエキスプレスの取材に対し、インド外務省のスポークスマンはこのように答えた。

 これまで中国共産党政権は台湾や南シナ海などの領域を積極的に主張してきた。そのため、中国共産党政権がパキスタン領カシミールを支配下に置くなら、それはインドにとって頭痛の種となる。「一帯一路」が完成すれば、中国は中東市場へのアクセスを得るために中国・パキスタン経済回廊を重視する可能性が高く、中国がパキスタンを支援し、パキスタン領カシミールからの独占的な利益を得るというシナリオも想定される。

中国共産党政権が仕掛ける「債務トラップ」とは

 インドはまた、中国がパキスタンに「債務トラップ」を仕掛けるのではないかと警戒する。中国共産党政権は、途上国など債務返済が困難な国に対し、返済できないことを十分に理解した上で融資を行っていると知られているためだ。そして、中国から融資を受けた国がデフォルト(債務不履行)すると、中国は自分達の要求を受け入れるよう強制してくる。

 台湾国立大学の曾建元氏は次のように語った。
「中国は今も拡大と発展を続けようとしています。債務を支払うあてがないアジア太平洋諸国に投資すれば、こうした国々が有する豊かな戦略的資源に永続的な支配を確立できるのです」

 インドの近隣国、スリランカの事例を紹介したい。同国が「ハンバントタ港」を開発する際、中国共産党政権は融資を行った。そしてスリランカが融資を返済できなくなると、中国はスリランカ政府に対し同港の支配を認めさせた。スリランカ政府は、中国が軍事目的でこの港を利用することはないとしているが、一方の中国共産党政権側はスリランカ政府のコメントとは異なる意図を有していることを否定しない。

 つまりインドは、中国がパキスタンを債務トラップに誘導し、やがてパキスタン領カシミールを支配するのではないかと恐れているわけだ。

インド政府の対策

 東南アジア諸国が中国政府の支配下に入らないよう、インドは独自の開発構想を打ち立てている。例えば「南アジア準地域経済協力(SASEC)」は、ミャンマーとインドを結びつけることで、「一帯一路」に依存することなく東南アジア諸国がインドおよび中東市場にアクセスを可能とするプロジェクトだ。

 インドの新聞Livemintは、あるインド政府高官の見解を次のように紹介した。
「SASECプログラムは、バングラデシュ、ブータン、ネパール、インド(BBIN)間の道路インフラに重点を置き、地域のつながりを改善することに注力しています。同プログラムが関与する『インパール=モーレ回廊』はアジアハイウェイ1号線の一部でもあり、近隣諸国とのつながりが強化されるのは間違いありません。道路インフラへの貢献によって国際レベルでのコミットメントを実現しようとするインドの試みは、国際的な地位の向上にも繋がることでしょう」

 インドの長年の同盟国である日本も独自のイニシアチブを開始し、アジア諸国が中国に依存しすぎないよう取り組みを始めた。日印両国は、アジアと諸外国のつながりを発展させる共同プロジェクトに取り組んでいると伝えられている。

(翻訳・今野 秀樹)