中国共産党政権は、航空宇宙・バイオテクノロジー・代替エネルギーなどの分野で最先端の技術を獲得し、市場支配力を獲得することを目指して、今年「中国製造2025(Made in China 2025)」プロジェクトを開始した。このプロジェクトは、中国共産党政権に敵対的な態度を取るアメリカ対してさらに火に油を注ぐことになった。

 ロバート・ライトハイザー貿易代表は、ブルームバーグで「中国による世界の支配はアメリカにとっては悪いことだ」とコメントしている。同氏は、今後10年間で中国が先進的な技術を獲得し、革新的な製品を世に送り出すのではないかと警戒しているというわけだ。しかし、やがて「真実はその逆である」ということが明らかになるだろう。なぜなら、中国の最も深刻な課題の1つである「独裁政権による統治」がイノベーションの足を引っ張ることが予想されるからだ。

イノベーションの邪魔をしているのは中国政府自身

 中国で起きるイノベーションの陰には政府の支援がある、という点を見逃してはならない。 中国で新しい研究を行う人や組織は、その発見や発明によって、最終的には政府に利益をもたらすことを確約しなければならないのだ。このような制度は民主主義世界における自由経済制度と明らかに矛盾している。

 自由経済制度により、研究や資金調達に関与する人々が、そのリスクの対価として、自らが起こしたイノベーションにから金銭的な利益を得るのが原則である。 しかし中国共産党が提唱する共産主義の精神は、個人が何か新しいことを試みるために時間とお金を投資するという行為を「個人的な欲求にすぎない」と否定する。また中国社会では人々の個性が抑制されているので、イノベーションを起こそうとも思わなくなる。

 中国政府のやり方のもう一つの問題は、あるプロジェクトに対して、政府が資金調達すべきか否かについての選別を行う点にある。一般的に言って、プロジェクトの将来性を予見するなど非常に困難だ。こうした選別が行われることで、研究の重要性に関わらず、リスクが高く、成功のチャンスが少ないとみなされるプロジェクトは無視される。こうしたやり方は自由経済制度と異なる。

 民主主義な社会では、投資家は成功する可能性が低くても、成功すれば多くの利益を上げることを期待し、研究に資金を投資する。このようなシステムでは膨大な数の失敗もつきものだ。実際、文字通り何百もの企業が倒産に至っている。

 つまり、イノベーションという現象は、それを発生させようとする者を完全に破壊する可能性をはらんでいる。失敗に対する恐れから、中国政府は高いリスクが見込まれる研究には多くの資源を投入しようとしない。その結果、西側諸国の社会システムが繁栄し続ける一方で、中国共産党政権の社会システムは西側諸国の単なる模倣から抜け出すことができず、イノベーションを受け入れる体制が育たない。

「自由の欠如」は心理的にも悪影響をもたらす

 研究によると、米国の児童の創造性は過去30年間で低下していることが判明している。そしてその理由は「子どもの自由の低下」と関係しているという。この研究は、創造性と自由の間に重要なつながりがあることを示唆する。人々の自由度が低いほど創造性は低くなるーこの結果を中国に当てはめれば、中国が西側に遅れをとっている理由は明白だろう。

 中国人の自由は、政府によって鎮圧され規制されている。非常に小さいところから、人々は自分の考えが政府の考えと異なっていないかチェックするよう習慣づけられる。こうした思考の制限が中国人によるイノベーションを妨げているのは明らかだ。中国が個人の自由を保証する体制に移行し、自分の意見を持つことが許されるようになれば、数千年前のように、中国がイノベーションの中心地になる可能性さえあり得るのだ。

(翻訳・今野秀樹)